とある先輩の、歪んだ狂愛。




「俺も」



わたしの手からひょいっと奪われたラムネ。

当たり前のように同じ場所に口付けて、「久しぶりに飲んだ」なんて一言。


そんな言葉さえズキッと胸が痛む。



「お、花火あがった」


「……きれい、」


「んね。スターマインじゃない?」



何発もの火花が暗い夜空へと咲いて、先輩の横顔を光らせる。


先輩…楽しいのかな。

わたしなんかとお祭りに来て、半ばお母さんに無理やり言われてたようなものだし。



「じゃがバター、おいしい?」


「…はい」


「んじゃ俺も」



並ぶ肩が、触れそうで触れない距離が。

どこか寂しくて切なくてもどかしくて、苦しくて。



「…うま。お祭りってなんでこんなに特別感あるんだろうね」


「……こういうのが、…幸せだからじゃないですか」


「…幸せ?」



先輩はスッとわたしを見つめた。


ぐっと言葉を飲み込もうとしても、その眼差しが聞いてくる。

お前のペースでいいよ、と言ってくれる。



< 139 / 242 >

この作品をシェア

pagetop