とある先輩の、歪んだ狂愛。
「昔はこれだけが欲しくてラムネ買ってたな」
すると先輩は、ビー玉を両手で隠すように覆ってぎゅっと拳をふたつ作った。
「どっちに入ってるでしょーか」
「……右です」
「ファイナルアンサー?」
適当だった。
だってわたし、手先は見てなかった。
「…ファイナルアンサー…」
「ふっ、ずいぶんと自信なさげだけど」
だってビー玉を懐かしむ先輩の顔ばかりを追ってしまってて。
そんなの、見てなかったから。
「───正解」
パッと開いた右手。
暗闇の中でもキラキラ光るビー玉。
「はい、あげる」
今までラムネを飲んだことはあっても、こういうものをわざわざ取り出して大切に保管するようなことはしなかった。
先輩から初めて渡されたもの。
彼が握った手の熱が、ビー玉を伝わってわたしに触れてくる。
「…大切に、します」
ぎゅっと握った小さな青色。
失くさないように持ってなきゃ。
そしてわたしは、その人を見つめた。
「先輩、…わたしは、彩じゃないです」