とある先輩の、歪んだ狂愛。
「し、つれい…しました」
何事もなかったかのように通りすぎて、ドアの前で一礼。
これが職員室の正しい入退室だ。
「また急な話だな…。昨日連絡がきて驚いたよ」
「まぁね、うちは元から転勤族だから。これでも先伸ばしたほうなんだよ」
職員室を出る寸前の、ギリギリ聞こえた会話。
ぎゅっとお弁当を握って小走りで廊下を走って。
たどり着いた───屋上。
「空が高い…」
青く広がる空は、普段の目線からだと街の風景に溶け込んでしまって低く見える。
それでもこうして高い位置から見上げると、青く澄んで透き通っていて、綺麗。
誰もいない屋上。
青い景色に飲み込まれてしまいそうだ。
「…死んだら、…悲しんでくれる人はいるのかな」
そんなことを考えてしまったのは初めてだった。
死にたいとか消えたいとか、そういうのは考えていなかったとしても。
逆にもし死んだとして、そしたら誰が泣いてくれるんだろうって。
「お母さん…、大ちゃん…」
それくらいしか思い浮かばない。
先輩も……悲しんでくれるかな。