とある先輩の、歪んだ狂愛。
「あっ、てめ…っ!!」
なんとか奪ったとしても、相手に向けられるほどの勇気もないわたしは。
「返せこの野郎…!!」
「っ…、」
「殺すぞ…!!」
長い髪なんか、邪魔だ。
ほらこうやってまた掴まれてしまうんだから。
『もうさ、見栄とか格好とか要らないでしょ。なにを毎日クールぶってんのか知らないけど』
リレーのときもわたしは先輩の言葉を思い返していた。
全校生徒にも教師にも笑われる中で、ただがむしゃらに走って。
それでいいって先輩が言ってくれたような気がしたから。
「うわ、こいつまじかよ…!!」
ジャキ───ッ!
パサッと黒い髪が落ちたと同時、掴まれていた窮屈感も無くなって。
そこに出来た一瞬もの自由を見逃さず、ただ走った。
「チッ…!クソッ」
「教師にチクったら殺すからなッ!!」
そんな声を背に、走った。
選抜リレーはアンカー。
ゴール手前で抜かされて結果はビリ。
だとしても1位だと言ってくれて、本当は嬉しかった。