とある先輩の、歪んだ狂愛。
ポタポタと落ちては雨に溶ける涙。
「すずか、」
もう1度わたしの名前を呼んだ先輩は、目の前にしゃがんだ。
そして落ちる涙を受け止めるように見上げてくる。
スッと優しく両手を包んでくれて、温かい掌で握ってくれて。
「可哀想じゃないよ。お前は、可哀想な子なんかじゃない」
「…はい…、」
「普通だ。周りと何も変わらない」
「…は、い」
いつも先輩はわたしに「可哀想だ」って言う。
みんなわたしに同情してるって。
それなのに、こういうときに限ってそう言わない。
「恵まれてるんだよ、涼夏は」
「…は…い…、」
そんな言葉が、逆に聞こえる。
先輩が「お前は可哀想なんだよ」って言うときは「可哀想じゃない」に聞こえて。
だから今、「可哀想じゃない」って言う先輩の言葉は。
可哀想で仕方がない───って、聞こえる。
そんな先輩は天の邪鬼だ。
「俺、3学期はもうここに居ないよ?」
わたしから落ちた涙が先輩の頬に落ちて。
ツゥゥと、流れた。
「ここに来ても、もう俺は居ないよ?」