とある先輩の、歪んだ狂愛。
こういう言葉は言ってしまったら負けだと思っていた。
わたしがそう言うことで笑う人間で溢れているこの学校。
だったら言ってやるもんかって、ずっとずっと決めていた。
「じゃあもう───…逃げる?」
逃げたい。
やめたい、もう戦いたくない。
全校生徒vsわたし、ただひとり。
そんな毎日は嫌で嫌で、気持ち悪くて消えてほしくて、弱くて惨めで。
「逃げたら…なにか…変わりますか、」
「変わらない。なんにも変わらないけど…いま感じてる身体的苦痛は無くなるね」
ぐいっと腕を引かれた先で温かい感触に包まれた。
ぜんぶを隠してくれるように背中に腕が回って、わたしは倒れ込むように身体を預けて。
ぎゅっと、強く抱きしめてくれる先輩。
「わたし、逃げ……ない…」
先輩は今、わたしに手を差し出したように見せて背中を押してくれている。
「逃げる?」なんて誘惑をしてわたしを試しているんだ。
涼夏は彩とは違うでしょ───って、そんな先輩の問いかけが、ポンポンと背中を叩いてくれる動きで伝わってくる。