とある先輩の、歪んだ狂愛。
返事をしないまま立ち上がって通りすぎる。
───その寸前。
ガシッと腕が掴まれて、耳元スレスレに寄った唇。
「…最初のとこ、行ってて」
最初のとこ。
それは非常階段、ではなく。
その先の出口にある、暗ったるいゴミ捨て場前だ。
そこが初めて先輩がわたしの前に現れた場所。
「ちょっとアマネ?なにしてるの?」
「別に?つまずいただけ」
そのままパッと手は離れた。
わたしは逃げるように校舎を走って、生徒たちの少なくなってゆく廊下を選んで。
たどり着いた非常階段の先。
「くしゅっ…!」
なんでわたし、ここに来ちゃったんだろう…。
保健室に行って着替えを借りる予定だったのに。
これじゃあ風邪を引くまで時間の問題だ。
「俺と一緒に居ないからこーなるんでしょ」
「っ、」
ふわっとかけられた、乾いた大きめのタオル。
隣に腰かける先輩。
「…自分で拭けます」