とある先輩の、歪んだ狂愛。




じっと座っていればワシャワシャと拭いてくれる。

…やっぱり言うことを聞いてくれない。



「これ着替え」



ポスッと、今度はジャージが投げられた。


ふわっと広がった香りは消毒液の匂いなんかじゃなく。

それは今となりに居る人のシャンプーのようなヘアワックスのような、マスカット系の匂いで。



「俺の。明日までには洗って返して」


「……なんで、ですか」


「は?お前って人から借りたものは返さない主義?それどーかしてるよ」



ちがう、そうじゃない。
そんな最低な人間じゃない。


お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの。


それはどっちかと言うとあなただ。



「これは、…いじめですか?」


「…そう、イジメ」



だとしたら随分と優しいいじめだ。

こんなの、ぜんぜん苦しくない。


むしろ居たたまれなくなって、今すぐにでも逃げてしまいたくなる。



「ねぇ本当に感覚麻痺ってるのか知らないけど、さすがに今日のそれはキツいでしょ。精神的にも色々と」



< 32 / 242 >

この作品をシェア

pagetop