夜の早送り
朝が来るまでは
夜の澄んだ空気が好きだった。
「瀬尾」
ブランコに座り、地面に足を付けたまま前後に少しだけ揺れる彼を呼ぶ。キー…と金属の擦れる音が消えた。
「よー、家出少女」
彼は私の姿を見て満足そうに笑う。
その顔が、私は嫌いじゃなかった。
「…瀬尾もじゃん」
「ちげーよ。俺はお前と違って良い子だからな」
「…よく言うわ」
毎日ここに居るくせに、
その言葉を飲み込んで、代わりにため息をつく。
公園に設置されてある大きな時計に目を向けると、針は1時を過ぎたところを指していた。
彼の隣のブランコに座り、地面に足を付けたまま少しだけ前後に揺らす。私だけに、少しの風が吹いた。
「星名」
「ん?」
「俺があっためてやろーか」
ぎゅっとブランコの鎖を握る。悔しくて、恥ずかしくて、泣きそうだった。
瀬尾なんかに、私の心の中が見透かされているのが。
瀬尾なんかが、私が欲しがっているものを分かっていることが。
「泣きそうじゃん。どした?」
「…これは瀬尾のせい」
「はー?意味わかんねー」
眉を下げて困ったように笑う瀬尾。
その顔も、嫌いじゃない。
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