夜の早送り
「俺は学校で寝てるから平気。ここに居るから安心して寝な」
そうは言われても。1人でベッドに寝てたら凄い図々しい人みたいじゃんか。
「、瀬尾」
「いーってば。なんでそんな遠慮すんの」
「だって…」
私、ただの家出少女なのに。
「じゃあ分かった、」
「え?」
「一緒にベッドで寝よ」
「え」
「決まりね。はい、早くベッド行って」
「え、」
「お前、『え』しか言葉知らねーの?」
背中を押され、半ば強制的にベッドに入れられる。「瀬尾、」と呼んでも、「あー眠」とか言って流されてしまった。
分からないことがありすぎる。
「っ、せ、お」
「早く寝ろよお前」
「な、っなんで、」
「…人の体温はあったけーんだよ。なめんな」
夜の公園に毎日居る本当の理由も、私をここに連れてきた理由も、瀬尾に抱きしめられている理由も。
「…おやすみ、星名」
瀬尾といる夜だけが、いつも早送りされたようにあっという間に終わってしまう理由さえも。
何も知ろうとしないまま、私はまた朝を迎えるんだ。
初めて知る瀬尾の体温は、嫌いじゃなかった。