夜の早送り
「星名ー…」
おやすみ、と言ったあとに彼が話しかけてくるなんて珍しい。うなじにかかる吐息が少しだけくすぐったかった。
「寝た?」
「…寝た」
「起きてるじゃん。ね、身体こっち向けて」
「……、なんで」
「なんでも」
瀬尾の要望をすんなり実行できるほど、私の心臓は強く出来ていない。
瀬尾の方に身体を向けたら顔が見えてしまう。今まではバックハグだったからなんとか保てていたけれど、正面からなんて無理だ、絶対死ぬ。
だけど、
「意識してんの?」
瀬尾が試すようにそう言うから。
私ばっかり意識してるってバレるのが嫌で、天邪鬼な私は、思いとは裏腹に「してないし、」と可愛げなく言うしか無かった。
寝返りを打つように身体の向きを変える。既に暗闇に慣れつつあった目が、柔らかく微笑む瀬尾の姿をとらえた。