とある企業の恋愛事情 -ある社長令嬢と家庭教師の場合-
屋敷に戻ると、与えられている自室で聖の今週のスケジュールを組み始めた。
正義と澄子から言われている通りに予定を入れていくと、聖の自由時間はあっという間になくなった。
聖は毎日大学が終わった後は何かしらのレッスンが入っており、それは夜八時近くまで続く。休日も無論習い事のオンパレードだ。
たまに習い事がない日は、会社のイベントや視察に行く時間で埋められて、街でショッピングや観光に行くなんてことはまずない。
だから聖の言うように同級生がやるような派手な金遣いの遊びは自分からすることも出来なかった。
俊介はスケジュール表を見てため息をつきながらそれに書き込んだ。この表を見た時の聖のげんなりした顔が目に浮かんだ。
聖の専属執事である俊介は当然一日の大半を聖の用事に費やす。
部屋の掃除、食事の管理、服から家具まで調度品の選別。ありとあらゆる聖の管理を任されていた。だから、分刻みのスケジュールが決められているのは俊介も同じだ。
「今聖様はどちらにいますか?」、「何をしていらっしゃいますか?」と聞かれれば、詳細をそらんじることが出来る。
それくらい聖と密接な関係にあると、俊介は自分でも言い切ることができた。
だが、それは表面的なものだ。決して聖の好みを把握しているわけではなかった。
正義のイメージ戦略で聖は着るものから家具、食べ物、全て決められている。
だから聖が甘いものが嫌いでも、ティータイムには砂糖をたっぷり使った有名店の菓子を出し、紅茶にもコーヒーにもミルクはたっぷりだ。
部屋の家具類はイタリアの有名な家具職人が作っているし、ブランドを言えば知識のある者ならば流石ですねというだろう。
消耗品であろうが一流品で固められ、目立つパーティではどんな時でもそこにいる誰よりも金を掛けた衣装を身に纏う。
それが藤宮家の品位を落とさないためにしなければならないことで、聖もそれは理解している。心の中では嫌だと思っているのだろうが────。
屋敷での予定をあらかた終わらせた後、聖を迎えに大学に向かった。だがその前に寄る場所がある。車を都内にある大型百貨店へと回した。
ここでは間違っても、俊介自身のものを買うことはない。決められた店へ行き、決められたものを見て買って帰るだけだ。
いつもの店へ寄ると、俊介の姿を確認した店員は慌てて丁寧にお辞儀した。
「いらっしゃいませ青葉様」
「連絡したものだが、用意できているか?」
「はい、新色も入荷しておりますので宜しければご覧くださいませ」
一般人である俊介も藤宮家の代理人、ということでこの時は丁重にもてなされる。革張りの柔らかいソファに座って、テーブルに並べられた品物を見定める。
こういった百貨店に来ると、俊介は藤宮家の権力をほんの少し間借りすることが出来た。
藤宮家はいわゆる外商顧客だ。正義や澄子はしょっちゅう世話になっているから家に外商担当者が来ることも珍しくなかった。
聖は百貨店があまり好きではないためこうして俊介に買い物に行かせているが、買っているものは聖の好みに合わなさそうな派手なカラーの化粧品やバッグばかりだ。帰ったらまた渋い顔をされるのだろう。
授業が終わるまで三十分ある。余裕をもって迎えに行けるだろう。
買い物を終わらせると、俊介は足早に駐車場に向かった。
正義と澄子から言われている通りに予定を入れていくと、聖の自由時間はあっという間になくなった。
聖は毎日大学が終わった後は何かしらのレッスンが入っており、それは夜八時近くまで続く。休日も無論習い事のオンパレードだ。
たまに習い事がない日は、会社のイベントや視察に行く時間で埋められて、街でショッピングや観光に行くなんてことはまずない。
だから聖の言うように同級生がやるような派手な金遣いの遊びは自分からすることも出来なかった。
俊介はスケジュール表を見てため息をつきながらそれに書き込んだ。この表を見た時の聖のげんなりした顔が目に浮かんだ。
聖の専属執事である俊介は当然一日の大半を聖の用事に費やす。
部屋の掃除、食事の管理、服から家具まで調度品の選別。ありとあらゆる聖の管理を任されていた。だから、分刻みのスケジュールが決められているのは俊介も同じだ。
「今聖様はどちらにいますか?」、「何をしていらっしゃいますか?」と聞かれれば、詳細をそらんじることが出来る。
それくらい聖と密接な関係にあると、俊介は自分でも言い切ることができた。
だが、それは表面的なものだ。決して聖の好みを把握しているわけではなかった。
正義のイメージ戦略で聖は着るものから家具、食べ物、全て決められている。
だから聖が甘いものが嫌いでも、ティータイムには砂糖をたっぷり使った有名店の菓子を出し、紅茶にもコーヒーにもミルクはたっぷりだ。
部屋の家具類はイタリアの有名な家具職人が作っているし、ブランドを言えば知識のある者ならば流石ですねというだろう。
消耗品であろうが一流品で固められ、目立つパーティではどんな時でもそこにいる誰よりも金を掛けた衣装を身に纏う。
それが藤宮家の品位を落とさないためにしなければならないことで、聖もそれは理解している。心の中では嫌だと思っているのだろうが────。
屋敷での予定をあらかた終わらせた後、聖を迎えに大学に向かった。だがその前に寄る場所がある。車を都内にある大型百貨店へと回した。
ここでは間違っても、俊介自身のものを買うことはない。決められた店へ行き、決められたものを見て買って帰るだけだ。
いつもの店へ寄ると、俊介の姿を確認した店員は慌てて丁寧にお辞儀した。
「いらっしゃいませ青葉様」
「連絡したものだが、用意できているか?」
「はい、新色も入荷しておりますので宜しければご覧くださいませ」
一般人である俊介も藤宮家の代理人、ということでこの時は丁重にもてなされる。革張りの柔らかいソファに座って、テーブルに並べられた品物を見定める。
こういった百貨店に来ると、俊介は藤宮家の権力をほんの少し間借りすることが出来た。
藤宮家はいわゆる外商顧客だ。正義や澄子はしょっちゅう世話になっているから家に外商担当者が来ることも珍しくなかった。
聖は百貨店があまり好きではないためこうして俊介に買い物に行かせているが、買っているものは聖の好みに合わなさそうな派手なカラーの化粧品やバッグばかりだ。帰ったらまた渋い顔をされるのだろう。
授業が終わるまで三十分ある。余裕をもって迎えに行けるだろう。
買い物を終わらせると、俊介は足早に駐車場に向かった。