とある企業の恋愛事情 -ある社長令嬢と家庭教師の場合-
 ようやく本堂に話せると聖は上機嫌だった。
 
 そんな聖を見て本堂も察しがついたのだろう。自分からその話題を振ってきた。

「よかったな、オメデトウ」

「え? 知っていたの?」

「お前のそのご機嫌な顔見りゃあわかる」

「バレちゃった。そうなの、約束通り一番とったのよ。さぁ、教えてちょうだい」

「そんなに聞きたいのか?」

「だって、不思議だから。疑問があるととことん調べるタイプなの」

 聖がずい、と詰め寄る。

「さあ、教えてよ。どうして家庭教師になったの?」

 本堂はしばらく表情を変えなかったが、たっぷりと間を開けて答えた。

「お前に近づきたかったからだ」

 本堂の一言を聞いて、聖はしばらくその目を見つめた。嘘を言っているようには見えなかった。

 その言葉にどんな意味があるかは知らないが、あるとしたら三通りだ。

 よくいるのは藤宮というブランドが欲しい人間。藤宮に恨みを持つ人間。三つ目は、まだ出会ったことがない。

 この男がどれに分類されるか、今判断することはできない。それよりも、一つ目と二つ目で自分ががっかりすることの方が怖かった。ようやく面白い人物と出会えたのに、解雇にはしたくない────。

 聖はしばらく考え、結論を出した。

「あなたはいつも面白い答えを出してくれるのね」

「聞かねえのか?」

「たとえそれを聞いたとしても私は何もしないわ。自分の立場は自覚してるから」

「案外賢いんだな」

 苦笑して、聖は机の上の成績表を屑篭にシュートした。

 聞くことができなかった。本堂の答えは聞かなくても分かっていた。

 自分を見つめるその目が、何を言っているのかその時に理解した。

 それでも彼をそばに置きたいのは────自分を崩さないために必要だと判断したからだ。
< 18 / 96 >

この作品をシェア

pagetop