とある企業の恋愛事情 -ある社長令嬢と家庭教師の場合-

 ついに不快指数がマックスになって、本堂はゴミ箱を思い切り蹴飛ばした。
 
 ゼロが四つ付く高級なゴミ箱は無残に倒れ、中身が散って床が紙くずだらけになる。

「本堂……」

 気持ちは同じなのだろう、青葉はゴミ箱を蹴飛ばしたことを怒らなかった。

 ただ、青葉の方が大人なだけだ。本堂はとてもそんな紳士的な対応をする気にはなれなかった。

 二人は白鳥のせいで聖の仕事が加わって膨大な量になった仕事の山に没頭することになった。

 元々の仕事の量は実はそれほど多くない。そうならないように聖が調整していたのだろう。

 奇しくも白鳥のせいで、彼女がまた一人で無茶をしようとしていたことが明るみに出た。



 時計の針が二十時を回ったのを確認して、本堂はまた苛ついた。

 今頃聖が白鳥と一緒にいると思うと腹は立つし、いてもたってもいられない。

 どうしてこんなにイライラしているのか自分でも分からない。仕事を押し付けられたことが腹立たしいのか。嫌いな白鳥と聖が出かけることが嫌だからか。それとも聖が断りきらずに白鳥に従ったからか。

 苛々しているせいで仕事はなかなか進まなかった。

「本堂……今日はもう終わりにしないか? 急ぎの仕事でもないし、明日にしよう」

「……ああ」

 本堂は青葉に言われるままデスクを片付け始めた。このまま仕事をしてもどうせなにも終わらないだろう。

「本堂、この後なにか用事とかあるか?」

「いや……ねえよ」

「たまには男同士、飲みにいかないか」

 青葉から誘われたのは初めてだった。本堂は飲みに誘われたことに驚いたが、深く考えず頷いた。

 このまま家に帰っても悶々とするばかりで、どうせまた何かを蹴飛ばすことになる。それなら酒の一杯でも飲んで気を紛らわそうと思った。
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