とある企業の恋愛事情 -ある社長令嬢と家庭教師の場合-
第3話 俊介の苦悩
本堂が聖の家庭教師として藤宮邸に出入りするようになって、はや三ヶ月が経った。
俊介の毎日は特に変わらない。早朝四時に起き、身支度を整えたら執事の仕事をスタートする。
家中の使用人が集まり、ミーティング。そのあとは各々仕事に取り掛かるが、俊介は聖の専属執事のため、彼女のスケジュールを執事長の宮松に報告する義務があった。藤宮家の動きを各家人の担当執事が把握し、一日スムーズに動くためだ。
それからやっと、仕事に向かう。
朝の六時になると聖を起こし、カーテンを開ける。
眠そうな聖を食堂に促し、その間にベッドメイキングをして、数十分後に聖が着る服を用意し、授業で使う文具類を鞄に詰める。
聖が来る前に部屋を退出し、再び彼女が出て来るまでに玄関に車を回して待機しておく。
聖を大学まで送迎し、めんどくさそうに行ってきますと聖が言って、姿が見えなくなるまで見送る。
聖が大学に通うときはいつもこの流れで仕事していた。
聖とは幼少からの付き合いだが、昔は今のように大人しい少女ではなかった。外で遊ぶことが好きで、よく隠れて木登りもした。
その時は、俊介も本当に遊んでもらうために藤宮家に行っていると思っていた。
やがて中学に上がった頃父から説明を受けて、ようやく自身の立場を自覚した。
藤宮家と青葉家は主従関係。聖と自分は違う。雇い主と雇われた者の関係だ。仲の良かった聖と一線をひき始めたのはその頃からだった。
聖は大事な跡取り娘。いくら父親が藤宮家と懇意にしているとはいえ、態度を示す必要があった。「お嬢様」と呼ぶことに聖は不服そうだったが、仕方のないことだ。
それから俊介は大学を卒業し、聖の専属執事として雇われることになった。
長い付き合いで聖のことをよく知った俊介に、正義から直々に指名があったのと、聖自身がそうして欲しいと願い出た。
俊介は迷うことなくその誘いを受けた。どうしても聖の近くにいたかったから。
聖は金持ちが通うことで有名な私立大学に通っていて、家でも大学でも常に跡取りというプレッシャーと付き合っていかなければならなかった。
有名人や社長の子供が多く通う大学で、聖はその中でも間違いなくトップクラスの資産を持つ生徒だ。
親の職業、金がモノを言う大学では聖に指図出来るものはいない。教授ですら聖が右だといえば右に向くだろう。
俊介はその現場を直接見たことはなかったが、噂はあちこちから耳に入って来るため尋ねなくても知っていた。それに、それは大学の中だけの話ではなかった。
藤宮家の権力に媚び売る者はあとを絶たず、何かしらの繋がりを持っておこう、おこぼれに預かろう────そういう人間ばかりで、聖は同世代の女子とも必要以上は関わらずにいるようにしていた。きっとあまり楽しい大学生活ではないのだろう。
聖が通う大学の校舎を見ながら俊介は浅いため息を吐いた。
俊介の毎日は特に変わらない。早朝四時に起き、身支度を整えたら執事の仕事をスタートする。
家中の使用人が集まり、ミーティング。そのあとは各々仕事に取り掛かるが、俊介は聖の専属執事のため、彼女のスケジュールを執事長の宮松に報告する義務があった。藤宮家の動きを各家人の担当執事が把握し、一日スムーズに動くためだ。
それからやっと、仕事に向かう。
朝の六時になると聖を起こし、カーテンを開ける。
眠そうな聖を食堂に促し、その間にベッドメイキングをして、数十分後に聖が着る服を用意し、授業で使う文具類を鞄に詰める。
聖が来る前に部屋を退出し、再び彼女が出て来るまでに玄関に車を回して待機しておく。
聖を大学まで送迎し、めんどくさそうに行ってきますと聖が言って、姿が見えなくなるまで見送る。
聖が大学に通うときはいつもこの流れで仕事していた。
聖とは幼少からの付き合いだが、昔は今のように大人しい少女ではなかった。外で遊ぶことが好きで、よく隠れて木登りもした。
その時は、俊介も本当に遊んでもらうために藤宮家に行っていると思っていた。
やがて中学に上がった頃父から説明を受けて、ようやく自身の立場を自覚した。
藤宮家と青葉家は主従関係。聖と自分は違う。雇い主と雇われた者の関係だ。仲の良かった聖と一線をひき始めたのはその頃からだった。
聖は大事な跡取り娘。いくら父親が藤宮家と懇意にしているとはいえ、態度を示す必要があった。「お嬢様」と呼ぶことに聖は不服そうだったが、仕方のないことだ。
それから俊介は大学を卒業し、聖の専属執事として雇われることになった。
長い付き合いで聖のことをよく知った俊介に、正義から直々に指名があったのと、聖自身がそうして欲しいと願い出た。
俊介は迷うことなくその誘いを受けた。どうしても聖の近くにいたかったから。
聖は金持ちが通うことで有名な私立大学に通っていて、家でも大学でも常に跡取りというプレッシャーと付き合っていかなければならなかった。
有名人や社長の子供が多く通う大学で、聖はその中でも間違いなくトップクラスの資産を持つ生徒だ。
親の職業、金がモノを言う大学では聖に指図出来るものはいない。教授ですら聖が右だといえば右に向くだろう。
俊介はその現場を直接見たことはなかったが、噂はあちこちから耳に入って来るため尋ねなくても知っていた。それに、それは大学の中だけの話ではなかった。
藤宮家の権力に媚び売る者はあとを絶たず、何かしらの繋がりを持っておこう、おこぼれに預かろう────そういう人間ばかりで、聖は同世代の女子とも必要以上は関わらずにいるようにしていた。きっとあまり楽しい大学生活ではないのだろう。
聖が通う大学の校舎を見ながら俊介は浅いため息を吐いた。