竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 ラウラの祖母の知り合いという女性は、町の外れのこじんまりとした家に住んでいた。

「うちの親戚の娘で、最近この街へ来たのよ」

 そう紹介される。ラウラの家族はもちろんアメリアの素性を知っているが、町の人と関わるときは「親戚の娘」ということにして、伯爵家の名前は出したことがなかった。
 世間話を少しして、ラウラの祖母は帰っていった。するとその女性――ハンナが態度を改めた。

「あなたはカレンベルク家のお嬢様ですね」
「え!?」

 驚くアメリアにハンナは微笑んだ。

「私はこれでも昔、王宮の方々のドレスを手掛けたこともあるのですよ。普通の町の人は知りませんが、私はその色の瞳の意味を存じております。その瞳を持つ以上、あなたは王家の血を引く、貴族のご令嬢」

 ラウラがカレンベルク家へ奉公に出ていることは、きっと彼女の祖母が話したのだろう。それならアメリアに結び付くのは当然のことだ。アメリアは腹を決めた。

「素性を偽ったことをお詫びします、ハンナさん。お察しの通り、私はカレンベルクの娘アメリアです」

 ハンナは深く頷いた。さすがに大きな工房を構えていた女性だけあって、深い洞察力と懐を持つ女性のようだ。

「そのお嬢様が、なぜまた仕立てなどなさろうというのですか。見たところ、ただの気まぐれとも思えません。他所へは洩らしません、理由があるなら教えて下さいますか」

 ――この女性は信用できるだろうか。

 一瞬考えたアメリアだが、この女性に無理ならもうチャンスはないだろう。そう思って、思い切って口を開いた。

「はい、聞いて下さいませ」



 ハンナは途中で口を挟むことはなく、最後まで話を聞いてくれた。

「そこまで思い詰めてこられたのですね……」

 思えば、自分の計画を誰かに話したのは初めてだった。話し終えたアメリアに、小さくため息をついてハンナは言った。

「お嬢様、正直に申し上げて、何の職業でも、どんなに器用な方でも、一年や二年ではそれで食べてゆけるようにはなれません」
「はい」

 やはりだめだろうか。アメリアは下を向いた。

「ですが、本当に二年頑張ってくだされば、自分のドレスくらいなら作れるようになりますし、小さな工房の親方の下で雇ってもらえる程度にはなれるかもしれません」

 アメリアはパッと顔を上げた。

「あとはお嬢様の努力しだいです。少し遠いですが、ここまで通ってこられますか?」

 ハンナの顔が笑っている。アメリアは姿勢を正し、頭を下げた。

「はい、頑張ります。どうか私に教えて下さい」
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