竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
サロンの窓からは、門までが見通せる。エクムントと向かい合うように立っていたのは、意外にも質素な身なりの人物だった。年配の男と、その陰からこちらを覗く小柄な娘。
「……ラウラ!」
「ご存じの方なのですね? 間違いないですか、アメリア様」
「間違いないわ。カレンベルクの家で私の侍女をしてくれていたラウラと、彼女のお父様のクライバーさんです。……どうして、ラウラが」
アメリアは向き直り、何度も頷いた。
「持参した書類には、間違いなく子爵の印が押されているそうです。ヴィルフリート様、ここへ通してよろしいですね?」
「ヴィル様、私からもお願いします」
「アメリア、父親という男の方も面識があるのだね? 問題ない人物かい?」
アメリアの返事を待ってレオノーラに合図すると、心得たように出て行った。やがて彼女が庭を歩いていく姿が見えた。
「――お嬢様!」
アメリアをひと目見たとたん、ラウラはこらえられず泣き出した。その横で父親のクライバー氏が、丁寧に頭を下げる。
完全に身動きのとれなくなったギュンター子爵が思いついたのが、この人物だった。
アメリアは知らなかったが、ラウラの父クライバー氏は広く商売をし、貴族の館にも出入りしていた。ときには仕入れのために遠出することもあり、そういう意味ではうってつけだったのだ。今回も実際にいくつかの買い付けをしながらの旅だったという。実直で信頼もおけ、なによりラウラとのつながりでアメリアと面識があるのが大きかった。
むろん、王宮の秘密に関わらせるわけにはいかない。クライバー氏は厳重に封のされた厚い手紙を懐から出した。
「子爵様から、こちらのご主人さまにとお預かりして参りました。無事にお渡しできてようございました」
返事を預かってゆくというクライバー氏を待たせておいて、ヴィルフリートはエクムントと別室へ手紙を読みに行った。するとようやく泣き止んでいたラウラが口を開いた。
「お嬢様……。お久しぶりです。お元気そうで、良かったです」
「ラウラ、こんな遠くまでありがとう。まさかまた会えるなんて、思わなかったわ」
聞けば、ラウラはアメリアがいなくなってすぐに、家に戻されたのだという。
「お嬢様がいらっしゃらない以上、必要ないと言われまして……」
いかにもあの義父のやりそうなことだ。アメリアは眉を寄せたが、二人は気にした様子もなく笑っている。
「でも、良かったです。お嬢様、お幸せそうで……。それに、旦那様もすごく素敵な方じゃないですか」
「これラウラ、失礼だ」
「でも父さん、あんな透き通るような金髪、初めて見たんだもの」
恐縮する二人に微笑んで首を振って、アメリアは気づいた。詳しい事情を知らない二人には、ヴィルフリートの容姿は気にならないらしい。もしかして「竜の末裔」などという先入観がなければ、その程度のものなのか。
「……ラウラ!」
「ご存じの方なのですね? 間違いないですか、アメリア様」
「間違いないわ。カレンベルクの家で私の侍女をしてくれていたラウラと、彼女のお父様のクライバーさんです。……どうして、ラウラが」
アメリアは向き直り、何度も頷いた。
「持参した書類には、間違いなく子爵の印が押されているそうです。ヴィルフリート様、ここへ通してよろしいですね?」
「ヴィル様、私からもお願いします」
「アメリア、父親という男の方も面識があるのだね? 問題ない人物かい?」
アメリアの返事を待ってレオノーラに合図すると、心得たように出て行った。やがて彼女が庭を歩いていく姿が見えた。
「――お嬢様!」
アメリアをひと目見たとたん、ラウラはこらえられず泣き出した。その横で父親のクライバー氏が、丁寧に頭を下げる。
完全に身動きのとれなくなったギュンター子爵が思いついたのが、この人物だった。
アメリアは知らなかったが、ラウラの父クライバー氏は広く商売をし、貴族の館にも出入りしていた。ときには仕入れのために遠出することもあり、そういう意味ではうってつけだったのだ。今回も実際にいくつかの買い付けをしながらの旅だったという。実直で信頼もおけ、なによりラウラとのつながりでアメリアと面識があるのが大きかった。
むろん、王宮の秘密に関わらせるわけにはいかない。クライバー氏は厳重に封のされた厚い手紙を懐から出した。
「子爵様から、こちらのご主人さまにとお預かりして参りました。無事にお渡しできてようございました」
返事を預かってゆくというクライバー氏を待たせておいて、ヴィルフリートはエクムントと別室へ手紙を読みに行った。するとようやく泣き止んでいたラウラが口を開いた。
「お嬢様……。お久しぶりです。お元気そうで、良かったです」
「ラウラ、こんな遠くまでありがとう。まさかまた会えるなんて、思わなかったわ」
聞けば、ラウラはアメリアがいなくなってすぐに、家に戻されたのだという。
「お嬢様がいらっしゃらない以上、必要ないと言われまして……」
いかにもあの義父のやりそうなことだ。アメリアは眉を寄せたが、二人は気にした様子もなく笑っている。
「でも、良かったです。お嬢様、お幸せそうで……。それに、旦那様もすごく素敵な方じゃないですか」
「これラウラ、失礼だ」
「でも父さん、あんな透き通るような金髪、初めて見たんだもの」
恐縮する二人に微笑んで首を振って、アメリアは気づいた。詳しい事情を知らない二人には、ヴィルフリートの容姿は気にならないらしい。もしかして「竜の末裔」などという先入観がなければ、その程度のものなのか。