竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「では、行きましょう」
アメリアとヴィルフリートには、フーゴが付いてくることになった。
「ああ。エクムント、皆、元気で」
「お任せください、ヴィルフリート様。奥方様もお気をつけて」
「……ありがとう、お世話になりました」
皆長い付き合いだ。涙をこらえる者もいる。それでも事情は分かっているので、誰も引き留めることはしない。
門を抜けた瞬間、ヴィルフリートがぎくりと立ち竦んだ。右を左を、何度も辺りを見回し、足元を見下ろす。その両脚は、間違いなく敷地の外を踏んでいた。
「……ヴィル様……」
「まさか、外へ出る日が来るとは……」
そう呟いて天を振り仰ぎ、きつく目を閉じた。そのまま息を整え、頷いて目を開ける。
「もう大丈夫だ」
そして一度だけ振り返り、手を上げてみせた。レオノーラはもちろんエクムントも、もう涙を隠すことはできなかった。
「行こう」
ヴィルフリートは歩き出した。初めて自らの足で「竜の城」の外へ向かって。