竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜

守りたいもの

「……皆はこの後どうするんですか?」

 まだ明るい山道を歩きながら、アメリアは尋ねた。館を出てから口数が少なくなってしまったヴィルフリートに代わって、フーゴが答える。

「アンヌたちのように、近くに身寄りがある者はそこへ行きます。身寄りがなくても、新しい家を買えるくらいのお給金はいただいてましたからね、ご心配はいりませんよ。私や二コラは、いずれ王都へ帰ります。もともと我々は、ギュンター子爵の配下ですから」
「レオノーラさんは?」
「レオノーラ、ですか」

 なぜか口ごもるフーゴを不思議そうに見上げると、横でヴィルフリートがくすりと笑った。

「アメリア、心配ないよ。一番腕の立つ男がついているからね。レオノーラのためにも、なるべく早く返してやらなくてはな」
「ヴィルフリート様、なぜそれを」
「馬鹿だな、私は誰よりも耳がいいんだぞ」
「あ……」

 やや強面なフーゴの耳が、わずかに赤くなっている。それを見てやっとアメリアにも分かった。

「そうだったのですね」
「……迂闊でした。まさかヴィルフリート様がご存じだったとは」

 ヴィルフリートが笑った。思えばヴィルフリートは、今日初めて笑ったのではなかったか。

「フーゴさん、レオノーラさんをよろしくね」

 アメリアの言葉に、フーゴが首まで赤くなった。



 日が落ちてきたが、灯りをつけるわけにはいかない。幸い月が出ているので、足元が見えないということもない。

「お二人とも、大丈夫ですか」

 たびたびフーゴが気遣ったが、散歩が趣味というヴィルフリートはもちろん、王都にいた頃にはドレスの仕立てを習うために邸を抜け出していたアメリアも、思った以上に健脚だった。ただアメリアは夜道を歩くのは初めてで、何度か木の根につまずいてしまい、その度にヴィルフリートに支えてもらっていた。

「アメリア、その先は段になっている」
「右に大きな石があるから気を付けて」

 ヴィルフリートが夜目が効くのは本当で、彼の注意がなかったら、今頃は歩けなかっただろう。

「アメリア様、少し休みますか」

 フーゴが振り返って問いかけたとき、ヴィルフリートが片手をあげた。

「フーゴ、下から人が来る。……かなりの人数のようだ」
「ついに来ましたか。では、お二人はこちらへ」

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