竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「アメリア、大丈夫か」
決して弱音を吐こうとしないアメリアだが、慣れない山道だ。歩き出してしばらくすると、さすがに足を引きずりだした。それでもどうにか道を下ってくると、アメリアの耳にも小さな水音が聞こえた。
「こっちのようだ」
ヴィルフリートの手を借りてようやく辿りついたのは、雪解け水が集まったらしい小川だった。二人は喉を潤し、ヴィルフリートは布を濡らして、アメリアの疲れた足を拭った。
「ヴィル様、自分で……」
そう言いつつも、疲れ果てたアメリアは結局されるままだ。
ヴィルフリートは辺りを見回した。
いくらなんでも、水場のすぐ横では目立ちすぎるだろう。少し離れた大木の根元にアメリアを導く。
「おいで、少し休むといい」
歩みを止めると、途端に疲れがおそってくる。
毛布でもあればいいのだが、生憎そんなものまで持ち出していない。ヴィルフリートはアメリアを膝に抱いた。
「皆、大丈夫でしょうか」
「ああ、フーゴが間に合えば大丈夫だ。あれは本当に腕が立つのだから」
「……はい……」
緊張と慣れぬ山歩きで、疲労困憊していたのだろう。アメリアは目を閉じたと思うと、すうっと眠りにおちてしまった。
そのころ「竜の城」では、エクムントと二コラが必死に賊と戦っていた。他の者は館に籠って出入り口をふさいでいる。しかし十人以上を相手では、さすがに分が悪かった。
「……っ」
エクムントの肩が撥ねるように切り上げられた。年齢もいっている彼は、いくらか息も上がっている。考えたくはないが、嫌な予感に二コラは小さく舌打ちをした。
その時、心当たりのない悲鳴が聞こえた。はっと目を上げると、よく知る男が剣を振りかざしている。
「フーゴ、なぜ」
「話は後だ」
ヴィルフリートの言ったとおり、フーゴが間に合ったことで彼らは救われた。だが、馬車の中に潜んでいた人物がひっそりと抜け出したことに、誰も気付くことはできなかった。
決して弱音を吐こうとしないアメリアだが、慣れない山道だ。歩き出してしばらくすると、さすがに足を引きずりだした。それでもどうにか道を下ってくると、アメリアの耳にも小さな水音が聞こえた。
「こっちのようだ」
ヴィルフリートの手を借りてようやく辿りついたのは、雪解け水が集まったらしい小川だった。二人は喉を潤し、ヴィルフリートは布を濡らして、アメリアの疲れた足を拭った。
「ヴィル様、自分で……」
そう言いつつも、疲れ果てたアメリアは結局されるままだ。
ヴィルフリートは辺りを見回した。
いくらなんでも、水場のすぐ横では目立ちすぎるだろう。少し離れた大木の根元にアメリアを導く。
「おいで、少し休むといい」
歩みを止めると、途端に疲れがおそってくる。
毛布でもあればいいのだが、生憎そんなものまで持ち出していない。ヴィルフリートはアメリアを膝に抱いた。
「皆、大丈夫でしょうか」
「ああ、フーゴが間に合えば大丈夫だ。あれは本当に腕が立つのだから」
「……はい……」
緊張と慣れぬ山歩きで、疲労困憊していたのだろう。アメリアは目を閉じたと思うと、すうっと眠りにおちてしまった。
そのころ「竜の城」では、エクムントと二コラが必死に賊と戦っていた。他の者は館に籠って出入り口をふさいでいる。しかし十人以上を相手では、さすがに分が悪かった。
「……っ」
エクムントの肩が撥ねるように切り上げられた。年齢もいっている彼は、いくらか息も上がっている。考えたくはないが、嫌な予感に二コラは小さく舌打ちをした。
その時、心当たりのない悲鳴が聞こえた。はっと目を上げると、よく知る男が剣を振りかざしている。
「フーゴ、なぜ」
「話は後だ」
ヴィルフリートの言ったとおり、フーゴが間に合ったことで彼らは救われた。だが、馬車の中に潜んでいた人物がひっそりと抜け出したことに、誰も気付くことはできなかった。