竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
唇を噛みしめ、ヴィルフリートが剣を捨てるべく手を上げた、その時。
「ぎゃあっ!?」
突然男が叫び、剣を取り落とした。咄嗟に足元に転がった剣を拾おうとした男を避けて、アメリアが転がる。
「ヴィル様!!」
「離れろ!」
その後自分がどう動いたのか、ヴィルフリートは覚えていない。叩きつけるように剣を振るい、膝をついた男にのしかかり……。
「ヴィル様、ヴィル様!」
気がついたら、目の前に男が倒れていた。
「……アメリア、無事か!」
「はい。……はい、ヴィル様!」
アメリアは手に持っていた何かを落とし、そのままヴィルフリートに飛びついた。全身を震わせて泣くアメリアに、彼はようやく我に返って抱きしめる。そのまま崩れるように腰を落とし、二人は長い間抱き合っていた。
「ヴィルフリート様! アメリア様! ――これは!?」
フーゴが駆け戻ってきたのは、それから少し後のことだった。事情を察した彼は二人を座らせ、その場の始末をする。
「……そういえばアメリア、あの男が剣を落としたのは……」
ようやく落ち着いたヴィルフリートが思い出して尋ねると、アメリアは頬を赤らめた。その答えは、フーゴが持ってきた。
「これですね。そこに、落ちていましたよ」
それは、裁縫に使う鋏だった。
「アメリア……!」
「私、剣は使えませんから……。何か武器になるものと思って……」
ポケットにしのばせたそれを、思いきり腕に突き立てたのだという。
「……ごめんなさい、ヴィル様」
「……アメリア」
ヴィルフリートは絶句した。なんと無謀な……、だがそれがなかったら、剣を捨てるしかなかったはずだ。
自分はまさに、アメリアに救われたのだ。
「さすが、私の妻だ」
ヴィルフリートが破顔すると、後ろで必死に堪えていたらしいフーゴが、ついにたまらず吹き出した。
「もう、笑わないで」
頬を赤く染めて俯くアメリアを、ヴィルフリートはもう一度抱きしめる。
「さあ、行きましょう。奴らの馬車がありますからね、ここからは一気に行けますよ」
荷物を拾い、フーゴが促した。
「助けてくれてありがとう、アメリア」
「私こそ、守って下さってありがとうございます」
どちらからともなく手を繋いだとき、白い月がちょうど、一番高いところに顔を出した。二人は微笑み合い、小川を越えて歩いていった。
「ぎゃあっ!?」
突然男が叫び、剣を取り落とした。咄嗟に足元に転がった剣を拾おうとした男を避けて、アメリアが転がる。
「ヴィル様!!」
「離れろ!」
その後自分がどう動いたのか、ヴィルフリートは覚えていない。叩きつけるように剣を振るい、膝をついた男にのしかかり……。
「ヴィル様、ヴィル様!」
気がついたら、目の前に男が倒れていた。
「……アメリア、無事か!」
「はい。……はい、ヴィル様!」
アメリアは手に持っていた何かを落とし、そのままヴィルフリートに飛びついた。全身を震わせて泣くアメリアに、彼はようやく我に返って抱きしめる。そのまま崩れるように腰を落とし、二人は長い間抱き合っていた。
「ヴィルフリート様! アメリア様! ――これは!?」
フーゴが駆け戻ってきたのは、それから少し後のことだった。事情を察した彼は二人を座らせ、その場の始末をする。
「……そういえばアメリア、あの男が剣を落としたのは……」
ようやく落ち着いたヴィルフリートが思い出して尋ねると、アメリアは頬を赤らめた。その答えは、フーゴが持ってきた。
「これですね。そこに、落ちていましたよ」
それは、裁縫に使う鋏だった。
「アメリア……!」
「私、剣は使えませんから……。何か武器になるものと思って……」
ポケットにしのばせたそれを、思いきり腕に突き立てたのだという。
「……ごめんなさい、ヴィル様」
「……アメリア」
ヴィルフリートは絶句した。なんと無謀な……、だがそれがなかったら、剣を捨てるしかなかったはずだ。
自分はまさに、アメリアに救われたのだ。
「さすが、私の妻だ」
ヴィルフリートが破顔すると、後ろで必死に堪えていたらしいフーゴが、ついにたまらず吹き出した。
「もう、笑わないで」
頬を赤く染めて俯くアメリアを、ヴィルフリートはもう一度抱きしめる。
「さあ、行きましょう。奴らの馬車がありますからね、ここからは一気に行けますよ」
荷物を拾い、フーゴが促した。
「助けてくれてありがとう、アメリア」
「私こそ、守って下さってありがとうございます」
どちらからともなく手を繋いだとき、白い月がちょうど、一番高いところに顔を出した。二人は微笑み合い、小川を越えて歩いていった。