竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 夜明けの気配に、彼は目を覚ました。首をめぐらせば、純白の寝衣を着て寝台に横たわる彼の妻。

 艶やかな栗色の髪は解き流されていたが、夜の間にいくらか乱れてしまっている。ふっさりと長い睫毛に縁取られた瞼は固く閉じているが、淡いピンクの唇は僅かに緩んで、今にも彼を呼ぶ声が聞こえてくるかに思われる。

 彼は淡い黄水晶(シトリン)の瞳で、その姿を見つめる。知らず知らず、口元が優しくほころんだ。

 ――こうやって眠る姿を見ることも、もう何度目になるのだろう。

 彼は少し身体を起こした。
 そっと手を伸ばし、陶器のようになめらかな頬に触れてみる。柔らかな頬は、しっとりと吸い付くようだ。それから顔にかかるひと筋の髪を指先で払い……白い額に、そっと口付ける。甘い香りが、彼の鼻腔を満たした。

「ん……」

 長い睫毛が震え、明るい黄緑色の瞳が彼を見上げた。

「おはようございます、ヴィル」
「おはよう、アメリア」

 蕩けるような笑顔に引き寄せられ、ヴィルフリートはまた唇を寄せた。

「ん……あ、ヴィル」

 腰を抱きよせると、アメリアが小さく震えた。昨晩も愛し合った二人だけれど、何度抱き合っても、(つがい)を愛おしむ気持ちは尽きることがない。


 あれから故国の後継問題がどうなったかなど、彼は知らない。「竜の特徴(しるし)」が、果たして呪いなのかも分からないままだ。
 だが、そのようなことをヴィルフリートは負うつもりはない。彼のなかの「竜」は、彼にささやかな能力と最高の(つがい)をくれた。これからはもう何も求めることなく、「竜」の末裔として生きて行く――それだけでいい。

「あ……ヴィル、待って。もう起きなくては」
「大丈夫、まだ夜が明けたばかりだ」
「でも……っ、あ……」

 早くも頬を染め、息を弾ませるアメリアに覆い被さる。白い腕がヴィルフリートの首に回されると、彼は妻の耳元で囁いた。

「愛しているよ、アメリア」
「ヴィル、ヴィル……私も、愛しています」

 目を合わせては微笑みあい、幾度も口づけを交わす。
 やがて夜明けの青白い空が、黄金(きん)色に変わってゆく。朝の光が、抱き合って微睡(まどろ)む二人を照らした。



   Fin.
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