竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 数日後、アメリアはハンナのところへ向かった。

「先生、すみません。父から縁談を申し付けられ、もうこちらへ伺うことは出来なくなりました」

 アメリアがもうすぐ十八歳になることはハンナも知っている。仕方がないという表情で頷いた。

「まあ、貴族のお嬢様なら仕方のないことですからね。……おめでとうございます、と申し上げて良いのかしら? お相手は?」

 アメリアはどうにか笑ってみせた。

「まだお会いしていないので、何とも……。どうやら遠くへ嫁ぐことになりそうです」

 貴族の娘の結婚事情にも詳しいハンナは、望まない縁談だと悟ったのだろう。それ以上聞こうとはしなかった。それでも目を潤ませてアメリアに微笑む。

「貴族のご令嬢の中で、お嬢様ほど一生懸命な方を私は存じません。どうぞ最後まで人生を諦めることなく、お幸せに……」

 さらにハンナは「何か記念の品を」と、アメリアが今まで使っていた道具をくれようとした。だが、言えないけれど実際は「竜の花嫁」になる自分だ。

「嫁ぎ先に持っていくことを許されるか分からないので、残念ですが……」

 そう断るしかなかった。ハンナも理解してくれたが、やはり淋しい。

「先生、本当にありがとうございました」

 最後にもう一度礼を言い、アメリアは俯いて邸へ戻っていった。



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