竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
人ならざるもの
「噂、とは?」
ギュンター子爵は表情も変えなかった。アメリアは言ってはならぬことを言ったかと一瞬怯んだものの、何でも尋ねるよう言われたのだからと思い直した。
「間違っていたらお許し下さい。町ではこう言われています。――この国のどこかに竜がいて、竜が成年になった時、王家の血を引く娘を生贄に捧げなくてはならない、と」
子爵は肯定も否定もしない。ただ黙ってアメリアを見つめている。
「それは……本当なのですか?」
「あなたはどう思いますか」
落ち着いた声音で問い返され、アメリアは言葉に詰まった。
「……分かりません、これだけでは。調べてみましたが、建国史以外には、神話に出てくる竜の話しか見つけられませんでした。……それに」
「それに?」
「『竜の花嫁』という言葉も、どこにも」
ギュンター子爵はしばらくじっと、アメリアを眺めていたが、やがて立ち上がって近くの書棚から、古めかしい革装の本を持ってきた。
「おそらく、貴女の知りたい答えはここにあります。ですが、残念ながらこれはお見せすることが出来ません」
アメリアの目はその本に引き付けられた。子爵が膝の上で開いたページには、年代を感じさせる色あせたインクの、かすれ気味の書体が並んでいる。おそらく手書きの、相当古い本だと思われた。
「なぜですか」
「王家には王家の事情があります。すべてを知らせることは出来ないのです。不満でしょうが、私が抜粋してお教えします」
「……はい」
下を向いたアメリアの表情を、子爵は見逃さなかった。
「構いません。思うことがあれば言いなさい」
「はい。……実際に拝見出来ないのでは、私には嘘でも分かりません」
思い切って言うと、子爵は満足そうにうなずいた。その口元には笑みが浮かんでいる。
「そうですね。では、仮にこの本を差し上げたとして。書かれていることがすべて真実か、貴女に分かりますか?」
ギュンター子爵は表情も変えなかった。アメリアは言ってはならぬことを言ったかと一瞬怯んだものの、何でも尋ねるよう言われたのだからと思い直した。
「間違っていたらお許し下さい。町ではこう言われています。――この国のどこかに竜がいて、竜が成年になった時、王家の血を引く娘を生贄に捧げなくてはならない、と」
子爵は肯定も否定もしない。ただ黙ってアメリアを見つめている。
「それは……本当なのですか?」
「あなたはどう思いますか」
落ち着いた声音で問い返され、アメリアは言葉に詰まった。
「……分かりません、これだけでは。調べてみましたが、建国史以外には、神話に出てくる竜の話しか見つけられませんでした。……それに」
「それに?」
「『竜の花嫁』という言葉も、どこにも」
ギュンター子爵はしばらくじっと、アメリアを眺めていたが、やがて立ち上がって近くの書棚から、古めかしい革装の本を持ってきた。
「おそらく、貴女の知りたい答えはここにあります。ですが、残念ながらこれはお見せすることが出来ません」
アメリアの目はその本に引き付けられた。子爵が膝の上で開いたページには、年代を感じさせる色あせたインクの、かすれ気味の書体が並んでいる。おそらく手書きの、相当古い本だと思われた。
「なぜですか」
「王家には王家の事情があります。すべてを知らせることは出来ないのです。不満でしょうが、私が抜粋してお教えします」
「……はい」
下を向いたアメリアの表情を、子爵は見逃さなかった。
「構いません。思うことがあれば言いなさい」
「はい。……実際に拝見出来ないのでは、私には嘘でも分かりません」
思い切って言うと、子爵は満足そうにうなずいた。その口元には笑みが浮かんでいる。
「そうですね。では、仮にこの本を差し上げたとして。書かれていることがすべて真実か、貴女に分かりますか?」