竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「……え」
さすがにアメリアは虚をつかれた。
「……そこまで考えたことは、ありませんでした」
そこへノックの音がして、お茶が運ばれた。優雅な所作で女官が出て行くのを、アメリアはぼんやりと眺めていた。
子爵は一口喉を潤し、さらに続ける。
「疑えばきりがない。信じる、信じないは貴女次第。これからお話するのは、まさにそのような内容です」
「私次第……」
呆然と繰り返すアメリアに、子爵はわずかに身を乗り出した。
「私は貴女と同じように『竜の花嫁』に選ばれたご令嬢を、これまでにもここへお招きしたことがあります。ですがこの話をするのは、貴女が初めてです。――そうですね、母上」
アメリアと同じ瞳の老婦人は、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「理由は簡単です。これまでこの部屋へ招いた令嬢たちは、誰も貴女のように自ら訊ねることをしなかった。恐れ、諦め、嘆き……、そのような感情で、何も考えられなくなっていたのです」
「……私にも、恐れる気持ちはありますし、嘆いてどうにかなるならば、いくらでも嘆きます。ただ……」
「ただ?」
穏やかに先を促す子爵に、アメリアは思い切って言った。
「私はただ運命を受け入れて、諦めるということができないのです。なぜそうしなくてはならないのか、どうしたらほんの少しでも、自分の望むようにできるか……。貴族の娘らしからぬことかもしれませんが、どうしてもそう考えてしまうのです」
王家の定めに逆らう気かと、もしかしたら叱責されるかもしれない。そう思って俯いたアメリアに、思いがけず優しい声がかけられた。
「そう、そんな貴女だから……私はお話しする気になったのです。貴女には話す価値がある。むろん今はまだ言えないこともありますが、いずれすべてを貴女が知ったときに、自分で判断するといい」
そして子爵は話し始めた。
さすがにアメリアは虚をつかれた。
「……そこまで考えたことは、ありませんでした」
そこへノックの音がして、お茶が運ばれた。優雅な所作で女官が出て行くのを、アメリアはぼんやりと眺めていた。
子爵は一口喉を潤し、さらに続ける。
「疑えばきりがない。信じる、信じないは貴女次第。これからお話するのは、まさにそのような内容です」
「私次第……」
呆然と繰り返すアメリアに、子爵はわずかに身を乗り出した。
「私は貴女と同じように『竜の花嫁』に選ばれたご令嬢を、これまでにもここへお招きしたことがあります。ですがこの話をするのは、貴女が初めてです。――そうですね、母上」
アメリアと同じ瞳の老婦人は、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「理由は簡単です。これまでこの部屋へ招いた令嬢たちは、誰も貴女のように自ら訊ねることをしなかった。恐れ、諦め、嘆き……、そのような感情で、何も考えられなくなっていたのです」
「……私にも、恐れる気持ちはありますし、嘆いてどうにかなるならば、いくらでも嘆きます。ただ……」
「ただ?」
穏やかに先を促す子爵に、アメリアは思い切って言った。
「私はただ運命を受け入れて、諦めるということができないのです。なぜそうしなくてはならないのか、どうしたらほんの少しでも、自分の望むようにできるか……。貴族の娘らしからぬことかもしれませんが、どうしてもそう考えてしまうのです」
王家の定めに逆らう気かと、もしかしたら叱責されるかもしれない。そう思って俯いたアメリアに、思いがけず優しい声がかけられた。
「そう、そんな貴女だから……私はお話しする気になったのです。貴女には話す価値がある。むろん今はまだ言えないこともありますが、いずれすべてを貴女が知ったときに、自分で判断するといい」
そして子爵は話し始めた。