竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「建国史と建国神話を読まれたのなら話は早い。この本の記述も、そこから始まっています。初代ゲオルグ王が竜に加護を願った際、自らの妹を差し出されたということはご存じですね」
「はい、読みました」
「その先は関係者以外には知られていません。王族の方々も、すべてをご存じの方は多くない。――いいですか。それ以来、王家には『竜の特徴(しるし)』をもつ者が生まれるようになりました」

 ――竜の、特徴(しるし)

 首を傾げるアメリアに、子爵は頷いて続けた。

「身体のどこかに、竜の血を引く証、たいていは鱗ですが……それをもって生まれてくるのです。他に外見も、髪の色素が薄く、瞳も完全な黄金(きん)色。普通の人間(ひと)より、少しだけ寿命も長い」

 アメリアは息を呑んだ。そんな話、聞いたこともない。

 その時初めて、ギュンター子爵の母だという女性が口を開いた。

「現在この世界に、神話にあるような本物の『竜』はいません。ですが、その血を引いたと言われる、ほんの少しだけ人と違うものがいるのです。この国の『竜』とは、それを指します」

 アメリアは冷たい塊が引っかかったように感じ、思わず喉に手をやった。息苦しいのに、息を飲むことができない。

「そしてもう一つ、竜の性質を受け継いでいるとされる部分がある」

 子爵はアメリアの目を覗き込むように言い、アメリアはひどく心が騒ぐのを感じた。

「竜は(つがい)を求めるのです」

 それは、知らない言葉ではない。なのに何故か、初めて聞く言葉のように響いた。

(つがい)……ですか?」
「そうです。人が伴侶を求めるよりも、さらに一途に純粋に、生涯ひとりの相手を」
「そんなことが……」

 初めて聞く話に引き込まれかけ、アメリアはそこで気がついた。

「――まさか」
「そうです、アメリア殿。貴女はまさに『竜の花嫁』となるのです」



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