竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 翌日、アメリアの表情は冴えなかった。おそらくあまり眠れなかったのだろう、ギュンター子爵はそう思った。昼過ぎに休憩をとった時には、さらに顔色が悪くなっていた。

「アメリア殿、大丈夫ですか」
「すみません、揺れが辛くて……」

 ――いつものように、薬を使ったほうがいいだろうか。

 過去の娘たちのなかには、恐怖や絶望で泣きっぱなしになる者もいたし、体力的に旅が合わず、調子を崩す者もいた。子爵はその辺りを見極め、場合によっては薬を与え、眠らせて連れて行ったこともある。
 しかし、この娘の場合はどうだろうか。気丈な娘だ。今日のところは自分で決めさせてみよう。

「アメリア殿、あまり辛ければ眠り薬があります。お辛いようなら、用意させますが?」

 アメリアは迷っているようだ。やはり薬を飲むことにはためらいがあるのだろう。

「それでは、次の休憩まで私の馬車に乗られますか? 一人でいるより気が紛れるかもしれません」

 また少し考えて、アメリアは頷いた。

「……ご迷惑でなければ、お願いします。少し、伺ってみたいこともありますので……」

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