竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 出発した馬車の中で、アメリアはしばらく黙っていたが、思い切ったように口を開いた。

「子爵様は、これから行くところへは……何度も行ってらっしゃるのですか?」
「ええ、行っています。毎年のように」
「では……」

 アメリアは言いかけて、聞いて良いのか躊躇う様子を見せる。

「言えないことはそう言いますから、何でもお聞きなさい」
「はい。なら、あちらの方に……お会いしたことがあるのですね?」

 あちらの方、とはもちろん「竜」のことだろう。花嫁になれと言われて、相手のことが気にならない娘などいる訳がない。

「もちろん、ありますよ。ですが、残念ながら詳しいことはお教えできません」
「……そうですか……」

 きゅっと顔を強張らせるその様子に、子爵は気がついた。まるで怯えたような表情になっている。どんな相手か知りたかった、というのではないのか?

「何を恐れているのです?」

 はっきりと尋ねると、アメリアはびくりと肩を震わせ、顔を上げた。

「言ってみなさい」
「……はい」

 アメリアは膝の上で手を固く組んだ。先日送って行った時から、子爵はそれが彼女の感情を押さえつける時の癖だと分かっている。

「先日、子爵様は『竜の特徴(しるし)をもつ』と……。母君様は『少しだけ人間(ひと)と違う』とおっしゃいました。それが、どのくらいのことなのか分からなくて……怖いのです」

 アメリアの言う意味が分からず、子爵は首を傾げた。

「どのくらい、とは?」

 するとアメリアは声を震わせた。

「……私は人間(ひと)ならざるものに添わねばならないのですか? 鱗とか、牙や角があるとか……もしそうだとしたら、私は……」

 ――なるほど、それで。

「アメリア殿、安心なさい。そのような異形のものではありません」

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