竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「アメリア、お前は『竜の花嫁』に選ばれた」
「……!」
――竜の、花嫁。まさか、そんな……。
たとえ誰と結婚しろと言われても、受け入れるつもりだった。それなのに……。さすがのアメリアも真っ青になり、言葉が出ない。
横で母親が、口元を押さえて嗚咽をこらえ、はらはらと涙を流している。それでも昔から、この義父に口答えなどただのひとつもしたことがない母だ。アメリアのために何か言ってくれることはない。
アメリアはきつく目を閉じ、叫びたいのを堪える。ようやく口から出た言葉は、いっそ優しいほどに穏やかだった。
「……もう、決まったことなのですね?」
伯爵はアメリアの反応など、気にもとめない。
「そうだ。来月の春の祭までに、準備を整えておくように」
「……かしこまりました、お義父様」
アメリアは立ち上がり、そのまま振り返らずに部屋を出た。
『竜の花嫁』。
王宮内では、そんな聞こえの良い言い方をされているが、巷では誰もそのように言う者はない。
公にされてはいないことだが、誰でも知っていることだ。
この国のどこかに竜がいる。『竜の花嫁』とは、つまり生贄のことなのだ。
「……!」
――竜の、花嫁。まさか、そんな……。
たとえ誰と結婚しろと言われても、受け入れるつもりだった。それなのに……。さすがのアメリアも真っ青になり、言葉が出ない。
横で母親が、口元を押さえて嗚咽をこらえ、はらはらと涙を流している。それでも昔から、この義父に口答えなどただのひとつもしたことがない母だ。アメリアのために何か言ってくれることはない。
アメリアはきつく目を閉じ、叫びたいのを堪える。ようやく口から出た言葉は、いっそ優しいほどに穏やかだった。
「……もう、決まったことなのですね?」
伯爵はアメリアの反応など、気にもとめない。
「そうだ。来月の春の祭までに、準備を整えておくように」
「……かしこまりました、お義父様」
アメリアは立ち上がり、そのまま振り返らずに部屋を出た。
『竜の花嫁』。
王宮内では、そんな聞こえの良い言い方をされているが、巷では誰もそのように言う者はない。
公にされてはいないことだが、誰でも知っていることだ。
この国のどこかに竜がいる。『竜の花嫁』とは、つまり生贄のことなのだ。