竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
アメリアはヴィルフリートの説明を聞きながら戸惑っていた。
夫となる「竜」と聞いていたものは、心配していたよりもずっと感じの良い方だった。恐ろしい相手だったらどうしようかと、ずっとそればかり心配していたのに。
不安でたまらなかった「竜の特徴」も、少なくとも今は分からないし、アメリアに話しかける態度も優しい。
――私が心配しすぎたのかしら?
せっかく邸内を案内してくれても、これまでは緊張のあまり会話らしい会話にならなかった。
どうしようかと案じていたが、図書室と聞いて思わず声をあげてしまった。果たして図書室は素晴らしかった。今まで義父にあまり本を読ませてもらえなかったアメリアは、知らずに笑みを浮かべでいた。
そんな彼女にヴィルフリートは、いつでも読んで良いという。そして本棚や古書について教えてくれる彼の声がさっきより楽しそうに聞こえるのは、きっと気のせいではないだろう。
素晴らしい本にいくらか興奮気味だったアメリアも、ようやく落ち着いてきた。そして初めて自分から、ヴィルフリートを見上げた。
「ヴィルフリート様……も、本がお好きなのですか?」
すると彼はアメリアを西の窓辺へ誘い、長椅子に掛けさせた。
そして自分は座らずに、アメリアの前に跪く。
「え、あの!?」
驚いたアメリアは、ヴィルフリートに両手を取られて何も言えなくなってしまった。
淡い金色の瞳が、まっすぐに彼女を見つめる。
「アメリア……、そう呼んでもいいか?」
「は、はい。ヴィルフリート様」
頬を真っ赤にしたアメリアが呼びかえすと、ヴィルフリートは目を細めた。
「ギュンター子爵から、少しは私のことを聞いているかな? 私は『竜の特徴』を持って生まれた」
その瞬間、思わずびくりと震えてしまったのを、ヴィルフリートに隠すことは出来なかった。
「ああ、聞いているんだね」
「すみません、私……」
気を悪くされたかと俯いたが、ヴィルフリートの声は変わらない。
「いいんだよ、アメリア。……私は『竜』だから、一生ここで暮らすことになる。庭へは出られるが、敷地の外へ出ることは、許されていない。だから、代々の『竜』は本好きが多いんだ。時間はたっぷりあるからね」
「ヴィルフリート様……」
穏やかな口調のなかに、僅かな翳りが滲む。顔を上げたアメリアに、ヴィルフリートは柔らかく微笑んだ。
「だから、アメリア。本当に……よく来てくれた。君に会えて嬉しいよ。私はずっと、番を……。君を、待っていた」
その目から溢れる想いが、熱の篭った口調が、何を意味しているか。今日初めて会ったアメリアでも、それが分からないはずはない。
いや、今日初めて会ったのだからこそ。
――どうして貴方は、そんな目が出来るのですか。どうして、私なのですか……?
そう問いたくてたまらなかった。だが思慕を隠そうともせず微笑むヴィルフリートを前にして、アメリアは何も言えそうになかった。
夫となる「竜」と聞いていたものは、心配していたよりもずっと感じの良い方だった。恐ろしい相手だったらどうしようかと、ずっとそればかり心配していたのに。
不安でたまらなかった「竜の特徴」も、少なくとも今は分からないし、アメリアに話しかける態度も優しい。
――私が心配しすぎたのかしら?
せっかく邸内を案内してくれても、これまでは緊張のあまり会話らしい会話にならなかった。
どうしようかと案じていたが、図書室と聞いて思わず声をあげてしまった。果たして図書室は素晴らしかった。今まで義父にあまり本を読ませてもらえなかったアメリアは、知らずに笑みを浮かべでいた。
そんな彼女にヴィルフリートは、いつでも読んで良いという。そして本棚や古書について教えてくれる彼の声がさっきより楽しそうに聞こえるのは、きっと気のせいではないだろう。
素晴らしい本にいくらか興奮気味だったアメリアも、ようやく落ち着いてきた。そして初めて自分から、ヴィルフリートを見上げた。
「ヴィルフリート様……も、本がお好きなのですか?」
すると彼はアメリアを西の窓辺へ誘い、長椅子に掛けさせた。
そして自分は座らずに、アメリアの前に跪く。
「え、あの!?」
驚いたアメリアは、ヴィルフリートに両手を取られて何も言えなくなってしまった。
淡い金色の瞳が、まっすぐに彼女を見つめる。
「アメリア……、そう呼んでもいいか?」
「は、はい。ヴィルフリート様」
頬を真っ赤にしたアメリアが呼びかえすと、ヴィルフリートは目を細めた。
「ギュンター子爵から、少しは私のことを聞いているかな? 私は『竜の特徴』を持って生まれた」
その瞬間、思わずびくりと震えてしまったのを、ヴィルフリートに隠すことは出来なかった。
「ああ、聞いているんだね」
「すみません、私……」
気を悪くされたかと俯いたが、ヴィルフリートの声は変わらない。
「いいんだよ、アメリア。……私は『竜』だから、一生ここで暮らすことになる。庭へは出られるが、敷地の外へ出ることは、許されていない。だから、代々の『竜』は本好きが多いんだ。時間はたっぷりあるからね」
「ヴィルフリート様……」
穏やかな口調のなかに、僅かな翳りが滲む。顔を上げたアメリアに、ヴィルフリートは柔らかく微笑んだ。
「だから、アメリア。本当に……よく来てくれた。君に会えて嬉しいよ。私はずっと、番を……。君を、待っていた」
その目から溢れる想いが、熱の篭った口調が、何を意味しているか。今日初めて会ったアメリアでも、それが分からないはずはない。
いや、今日初めて会ったのだからこそ。
――どうして貴方は、そんな目が出来るのですか。どうして、私なのですか……?
そう問いたくてたまらなかった。だが思慕を隠そうともせず微笑むヴィルフリートを前にして、アメリアは何も言えそうになかった。