竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
謎の本
長椅子に戻って再び本を広げたが、アメリアはやはりさっき見た小さな本のことが気になっていた。
「――アメリア、どうかしたのか?」
アメリアの気配を敏感に感じとって、ヴィルフリートが訊ねた。
「いいえ、大したことでは……」
「言いたくないことは言わなくても構わないが、君さえ良ければ、何でも話してほしい」
膝の上の分厚い本を閉じ、ヴィルフリートは柔らかく微笑んだ。
嫌なら言わなくていいというのはもちろん嘘ではない。だが本心を言うなら、どんな小さなことでも聞きたいし、知りたい。アメリアは気づいていないが、ヴィルフリートの膝上の本はもう何度も読んだものだ。今日はそれを読むふりでページを繰りつつ、実のところはアメリアを眺めていたのだった。叶うものならずっと、一日中だってアメリアを眺めていたい。
まったく自分でも呆れてしまう。番とは、こんなに……、どうにもならないほど惹かれてしまうものなのか。隣にいるだけで、眺めているだけで幸せで、時間すら忘れてしまう。
正直に言えばもちろん雄として、アメリアのすべてを手に入れたい。だがそれでアメリアを泣かすくらいなら、ヴィルフリートは己の腕だって落とすつもりだ。
今のところ、日々少しずつアメリアが打ち解けて笑顔が増えてきていることが、ささやかな幸せなのだった。
「何か、気になることでも?」
ヴィルフリートに重ねて問われ、アメリアは戸惑った。でもヴィルフリートが誠実な人だということは、この数日で良く分かっている。アメリアは思い切って口を開いた。
「あの、さっき落ちた中に、小さな本がありました」
「……ああ、最後に戻した本だね。何の本だった?」
「いえ、私も見てはいないのです。ただ……」
アメリアはギュンター子爵に呼ばれた際に、王宮でよく似た本を見たことを話した。そしてそれにはいわゆる「竜の花嫁」のことが書かれていたらしいことも。
「ちょっと待っていてくれ」
ヴィルフリートは先ほどの棚へ行き、件の本を抜き出して、その場で開いてみる。穏やかな瞳が、わずかに揺れた。図書室の本はかなり目を通したつもりだった彼も、このような本があることは気付いていなかった。
「なるほど……」
すぐに元の棚へ戻すと、戻ってアメリアに向かい合う。
「アメリア、子爵の持っていたという本は、おそらく王家の先祖が書いたものだ。君の想像通り『竜の花嫁』について書いてあるのだと思う」
「王家の方が……?」
「ああ。王族ではないかもしれないが、少なくとも『竜』に縁の深い者だろう。そしてここにあるほうも、やはり同じ者が書いたと思われる。そしてこちらの本には、私のような『竜の特徴』をもつ者……つまり『竜の末裔』に関することが書いてあるようだ」
「――アメリア、どうかしたのか?」
アメリアの気配を敏感に感じとって、ヴィルフリートが訊ねた。
「いいえ、大したことでは……」
「言いたくないことは言わなくても構わないが、君さえ良ければ、何でも話してほしい」
膝の上の分厚い本を閉じ、ヴィルフリートは柔らかく微笑んだ。
嫌なら言わなくていいというのはもちろん嘘ではない。だが本心を言うなら、どんな小さなことでも聞きたいし、知りたい。アメリアは気づいていないが、ヴィルフリートの膝上の本はもう何度も読んだものだ。今日はそれを読むふりでページを繰りつつ、実のところはアメリアを眺めていたのだった。叶うものならずっと、一日中だってアメリアを眺めていたい。
まったく自分でも呆れてしまう。番とは、こんなに……、どうにもならないほど惹かれてしまうものなのか。隣にいるだけで、眺めているだけで幸せで、時間すら忘れてしまう。
正直に言えばもちろん雄として、アメリアのすべてを手に入れたい。だがそれでアメリアを泣かすくらいなら、ヴィルフリートは己の腕だって落とすつもりだ。
今のところ、日々少しずつアメリアが打ち解けて笑顔が増えてきていることが、ささやかな幸せなのだった。
「何か、気になることでも?」
ヴィルフリートに重ねて問われ、アメリアは戸惑った。でもヴィルフリートが誠実な人だということは、この数日で良く分かっている。アメリアは思い切って口を開いた。
「あの、さっき落ちた中に、小さな本がありました」
「……ああ、最後に戻した本だね。何の本だった?」
「いえ、私も見てはいないのです。ただ……」
アメリアはギュンター子爵に呼ばれた際に、王宮でよく似た本を見たことを話した。そしてそれにはいわゆる「竜の花嫁」のことが書かれていたらしいことも。
「ちょっと待っていてくれ」
ヴィルフリートは先ほどの棚へ行き、件の本を抜き出して、その場で開いてみる。穏やかな瞳が、わずかに揺れた。図書室の本はかなり目を通したつもりだった彼も、このような本があることは気付いていなかった。
「なるほど……」
すぐに元の棚へ戻すと、戻ってアメリアに向かい合う。
「アメリア、子爵の持っていたという本は、おそらく王家の先祖が書いたものだ。君の想像通り『竜の花嫁』について書いてあるのだと思う」
「王家の方が……?」
「ああ。王族ではないかもしれないが、少なくとも『竜』に縁の深い者だろう。そしてここにあるほうも、やはり同じ者が書いたと思われる。そしてこちらの本には、私のような『竜の特徴』をもつ者……つまり『竜の末裔』に関することが書いてあるようだ」