竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 アメリアは目を瞠った。それはつまり、王家の秘事が書かれているということでは……?

「それは……すみません、私はとんでもないものを」
「いいんだ、アメリア。君はもう、私の花嫁になった。つまり、例え王宮にいなくても……君は王家の一員、もはや関係者だ」
「ヴィルフリート様……」
「だから知りたければ、あの本を読んでかまわない。私にそれを止めることは出来ない」

 ヴィルフリートの瞳が翳った。

「アメリア、君は自分の意志に関係なくここへ連れて来られ、初めて会った男の妻にされた。君には申し訳ないと思う」
「そんな、私は……」

 慌てて口を開いたアメリアに、ヴィルフリートは静かに(かぶり)を振る。

「いいんだ、アメリア。そう思いながらも私には……、君を王都へ返すことはできない。私はもう一生、(つがい)に会うことはないと諦めていた。君に会えたことは奇跡なんだ。だから君にここにいてもらうためなら、私にできることは何でもする」

 気づけばヴィルフリートは床に跪き、アメリアの手を包んでいた。

「欲しいものがあれば用意させる。私に足りないところがあれば、努力しよう」
「いいえ……、いいえヴィルフリート様。そんな……」」

 金の瞳が煌めいて、アメリアをひたと見つめている。アメリアはその輝きに引き寄せられ、目をそらせなくなってしまった。

「……ヴィルフリート様」
「私に気など遣わなくていい。その代わり、嘘をつかないでくれ。辛ければ、悲しければそう言ってほしい。――頼む、アメリア」

 名を呼ばれると同時に、膝の上の手がきゅっときつく握られた。

 ――不安なのは、私だけではないのだわ。

 竜は番に無条件の愛を注ぐと聞いてきたが、そのヴィルフリートでさえもこんなに不安なのだ。それでも彼はこうしてアメリアを心配し、思いやってくれている。

 ――この方を……「竜」を、好きになれるかはまだ分からない。でもヴィルフリート様がそうして下さるように、私もこの方に誠実でありたい。この方を、傷つけることはしたくない。

 アメリアは心の中でそう祈った。

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