竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
竜のしるし
レオノーラが出て行ってから、アメリアは長い間考え込んでいた。せっかくの紅茶が冷めてしまったことにも気づかない。
――ヴィルフリート様は、優しい方だった。
どんな恐ろしい姿をしているのだろう、そう怯えながらここへやって来たのは全くの杞憂だった。確かに目や髪の色は、少し違っている。それでも考えていたような、異形のものではなかった。
――竜らしいところなんて、何も――。
「――あ」
アメリアはふいに椅子から腰を浮かした。そのとき初めて気が付いたのだ。
――ヴィルフリート様の、「竜の特徴」って……?
日常目に入る部分には、それらしい特徴はない。夫婦のことをしていないので、彼の体を見たわけではない。たぶん、まだ目にしていないのだろう。だから知らなくても当然なのだけれど、その時のアメリアには、それがどうしても重要なことに思われた。
だからといって、ヴィルフリートに直接尋ねることはできそうにない。何故知りたいのかと聞かれても、はっきり説明できるわけでもない。
――「特徴」って、どんなものなのかしら?
いつの間にかアメリアは、「特徴」さえ知れば全てが解決するかのような気になっていた。はっきりしない気持ちを、それにこじつけているのかもしれない。自分では気付いていないが、アメリアの心の中にはまだ「人ならざるもの」への恐れが残っていた。
――見るからにというようなものではない、とギュンター子爵様は言っていた。
それでも、想像もつかないのは落ち着かない。
その時思い出したのは、昨日図書室で見かけたあの本のことだった。――あれになら、何か載っているかもしれない。ヴィルフリートの「特徴」が分からなくても、過去の竜たちがどんなだったか、それだけでも知ることができないだろうか。
アメリアははじかれたように立ち上がり、部屋を出て行った。
――ヴィルフリート様は、優しい方だった。
どんな恐ろしい姿をしているのだろう、そう怯えながらここへやって来たのは全くの杞憂だった。確かに目や髪の色は、少し違っている。それでも考えていたような、異形のものではなかった。
――竜らしいところなんて、何も――。
「――あ」
アメリアはふいに椅子から腰を浮かした。そのとき初めて気が付いたのだ。
――ヴィルフリート様の、「竜の特徴」って……?
日常目に入る部分には、それらしい特徴はない。夫婦のことをしていないので、彼の体を見たわけではない。たぶん、まだ目にしていないのだろう。だから知らなくても当然なのだけれど、その時のアメリアには、それがどうしても重要なことに思われた。
だからといって、ヴィルフリートに直接尋ねることはできそうにない。何故知りたいのかと聞かれても、はっきり説明できるわけでもない。
――「特徴」って、どんなものなのかしら?
いつの間にかアメリアは、「特徴」さえ知れば全てが解決するかのような気になっていた。はっきりしない気持ちを、それにこじつけているのかもしれない。自分では気付いていないが、アメリアの心の中にはまだ「人ならざるもの」への恐れが残っていた。
――見るからにというようなものではない、とギュンター子爵様は言っていた。
それでも、想像もつかないのは落ち着かない。
その時思い出したのは、昨日図書室で見かけたあの本のことだった。――あれになら、何か載っているかもしれない。ヴィルフリートの「特徴」が分からなくても、過去の竜たちがどんなだったか、それだけでも知ることができないだろうか。
アメリアははじかれたように立ち上がり、部屋を出て行った。