竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 またしても続き間の小部屋に舞い戻ったアメリアは、顔を覆って座り込んでいた。

 ――どうしよう。ヴィルフリート様はどう思われたかしら?

 傷ついたような、淋しげな顔をしていた。昨日は見ないと言ったのに、嘘をついたと思われただろうか? 自分を裏切ったと思っただろうか?

 ――ああ、なんてことをしてしまったのかしら。きっと傷つけてしまった。それともお怒りになったかしら? ヴィルフリート様にだけは、知られたくなかったのに。

 そこまで考えて、アメリアはふと顔をあげた。
 なぜ、知られたくなかったのか。どうして、傷つけたかもしれないことがこんなに辛いのか。

「わたし……」

 ヴィルフリートの笑顔が、手を触れることが、そして口づけが……、なぜこんなにも胸をしめつけるのか。

「なんて、馬鹿なの……!」

 ――ヴィルフリート様が、好き。

 アメリアは両手で口を覆った。

 ――こんなふうになってから分かるなんて……どうしよう、どうしたらいい?

 もちろん、伝えなくてはいけない。ヴィルフリートにとって、自分は「(つがい)」だ。彼の気持ちは、初めて会った時から痛いほどに伝わってきている。自分でも、誠実であろうと決めたではないか。

 ――「竜の城」へ来て一週間。ヴィルフリート様は何も言わずに、私の気持ちが動くのを待って下さった。私はそのおかげで、ヴィルフリート様という人を知ることができた。それなのに、せっかく好きになれたのに、そうと分かる前に傷つけてしまった。このままではいけない、ちゃんと伝えなくては……。

 アメリアは立ち上がりかけ、そしてはっと動きを止めた。どうやって、伝えるというの? どれだけ勇気をかき集めたら、ヴィルフリートに言えるだろう?
 それに、あの夜。「私を好きになってくれたら」と、ヴィルフリートは言った。貴方を好きになりました、と伝えることは、すなわち……。「抱いてください」と、自分から言うに等しい。

 ――ああ、そんなこと……恥ずかしくて言えない。でも、黙っているわけには……。どうやって伝えたらいいのかしら?

 アメリアには結局、どうしたらいいのか分からなかった。
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