竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 あっという間に土砂降りになった。ヴィルフリートはアメリアをかばいながら、大きな木の下まで行った。ここならいくらかは雨をしのげる。

「アメリア、大丈夫か」

 足元に籠を置き、ヴィルフリートはアメリアに被せた布を上げる。濡れた布を纏ったままでは、ドレスまでとおってしまうだろう。

「はい、大丈夫です」

 濡れて貼りついた髪を払いながら、アメリアは気丈に微笑んだ。だが、ここでは雨は防げても風は防げない。薄い絹のドレスのアメリアは、見るからに寒そうだ。ヴィルフリートは自分の上着を脱いでアメリアに羽織らせた。

「そんな、ヴィルフリート様が風邪を引いてしまいます」
「大丈夫だ。――竜は丈夫らしくてね、私は今まで熱など出したことがない」
「でも……」

 アメリアはしきりに遠慮したが、風が吹き抜けた瞬間、ぶるっと震えた。

「ほら、そのままにしていなさい」

 そう言って、アメリアを抱き寄せた。

 ヴィルフリートは王都で見た騎士たちのような、筋骨隆々とした身体ではない。すらりとして一見細身にさえ見える。だが、抱き寄せる腕の力は強く、頬を寄せた胸は固い。上着を脱いでしまったので、絹のシャツごしに感じられる体が温かかった。それでもアメリアはどうしていいか分からず、抱き寄せられたまま、ヴィルフリートの腕の中で身を固くしていた。

 ヴィルフリートが身じろぎしたとき、アメリアの頬に、何か固いものが当たった。見ると、彼の白いシャツの下に腕輪のようなものが透けている。

「ヴィルフリート様……?」

 袖の中、しかも二の腕という不自然な位置なので、アメリアは思わず顔を上げてしまった。するとヴィルフリートの表情が強張る。薄闇の中で、金の瞳が煌めいた。
 
「気になるか。いや、君には知らせなくてはならないのだな」
「……え?」
「――これが、私の『竜の特徴(しるし)』だ」
「あ……!」

 驚きに息を止めたアメリアの身体を離し、ヴィルフリートはシャツの袖を捲り上げた。アメリアが何も言えずに見ていると、幅の広い金の腕輪が現れる。

「見るがいい、私の(つがい)。これが私の、竜の末裔たる証」

 そう言って、ヴィルフリートはかちりと留め金を外した。アメリアに見えるように、少し腕を上げてみせる。
 薄暗い森の中で、乳白色の鱗が淡く輝いていた。

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