竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 いつの間にか日が傾いて、気づけば図書室の中は薄暗くなっていた。

 ――そろそろ明かりを点さなくては。

 立ち上がろうとしたアメリアは、急に手を引かれてよろめいた。

「きゃっ」

 ヴィルフリートはアメリアの腰を抱いて、唇を寄せる。

「え、ヴィルフリート様……っ?」

 その意味が分かって、アメリアはうろたえた。今まで寝室以外で、ヴィルフリートがそのようなふるまいをしたことはない。

「や……っ、だめ、ヴィルフリート様」
「どうしてだ?」

 襟元をくつろげられ、アメリアは慌てた。

「どうして、って……! 待ってヴィルフリート様、ここじゃ……」
「ならば寝室へ行けば良いのか?」

 ヴィルフリートはすぐにもアメリアを抱え上げて立ち上がってしまった。アメリアはその肩に手をかける。

「違います、ヴィルフリート様。そうじゃなくて……、それに、もうすぐ夕食が……!」
「……腹が減っているのか?」
「違います、けどっ!」

 そうこうしている間にもヴィルフリートは器用に扉を開けて、廊下へ出てしまう。ちょうどホールの向こうに、明かりを点して回っているレオノーラが見えた。

「レオノーラ」

 ヴィルフリートの声が、薄暗い廊下に響いた。

「まあ、ヴィルフリート様。アメリア様がどうかなさいましたの?」
「ヴィルフリート様、お願いですから下ろして」

 抱かれているアメリアを見て、レオノーラは慌てたように駆け寄ってきた。焦るアメリアを横目に、ヴィルフリートがさらりと言う。

「悪いが、食事は少し後にしてくれ。後で降りてくるから」
「――ヴィルフリート様っ!」

 アメリアは真っ赤になって顔を伏せ、乱れた胸元をかき合わせた。ヴィルフリートはレオノーラの返事を待たず、そのままつかつかと階段を上って行く。
 レオノーラは呆気にとられて主を見送って、途中でその意味に気がついた。

「変われば変わられるものだわ……」

 思わず緩んだ表情を引き締めて、レオノーラは厨房へ伝えに行った。


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