竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「もう、ヴィル様のばか」

 どれくらい経ったのか。我に返ったアメリアは、身体を丸めてヴィルフリートに背を向けていた。乱れたドレスを掻き寄せて身体を隠したけれど、白い首筋と背中は剥き出しのままだ。ヴィルフリートはその背を優しく撫でている。

「悪かった、アメリア。君があまり可愛いから……」
「いや、こんなところで。ヴィル様なんて嫌い」

 確かに、やり過ぎた。駄々っ子のように首を振るアメリアの背が、羞恥で赤く染まっている。ヴィルフリートは肩にそっと口づけた。

「それは困った。私はこんなに好きなのに」

 ヴィルフリートが抱き寄せると、アメリアはいっそう身体を丸めた。囁くその声は、蕩けるように甘い。

「や、もうだめですっ!」
「どうして?」
「どうして、って……!」

 真っ赤な顔を覗き込まれ、アメリアは泣きたくなった。また激しく鳴りだした胸の音が、ヴィルフリートに聞こえてしまうかもしれない。

「本当に私が嫌いか?」
「ああ……もう、ヴィル様……」
「ん?」

 明るい太陽の下であられもない姿で……。ことの済んだ後だからこそ、よけい恥ずかしくて死にそうだというのに、ヴィルフリートはどうしてこんなにも平気なのか。

「アメリア?」
「……恥ずかしかっただけ、です」
「悪かった。……なら私を嫌いになっていないね?」

 アメリアは俯いて、ヴィルフリートから目を逸らす。嫌いになんかなれる筈がない。ただ、最近のヴィルフリートはいやに艶めかしくて眩しくて、そばにいるとドキドキしてしまうのだ。
 それは自分も、以前よりもっと惹かれているということなのか。もしもこれ以上好きになったら、どうにかなってしまうかもしれない。

「……嫌いになんか、なりません」

 それどころか。きっと、もっと好きになる。それが「(つがい)」だからというなら、それでも構わない。

「ヴィル様、好き……」

 囁くような声を、ヴィルフリートの耳はしっかりとらえた。向きなおらせたアメリアにもう一度口づけ、抱き寄せる。
 まだもうしばらく、陽射しは暖かい。二人は長い間そのままでいた。


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