竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
三日降り続いてようやく雪が止んだ。陽射しを受けて雪は真っ白に輝き、二階の部屋は眩しいくらいだ。
「さあ、できました」
針を置いて枠を外した白い布を、アメリアは嬉しそうに眺めた。
「ヴィル様、……拙い出来ですけれど」
そう言ってふわりと広げてみせる。それは両手を広げたほどの長さになった。ヴィルフリートは咄嗟に意味が分からず、首をかしげる。
「……アメリア、これは?」
「ヴィル様に何か作りたくて、レオノーラにヴィル様の服を見せてもらいました。でもやはり、私が習った技術では殿方のものは歯が立たなくて。……それで、これを」
そこまで言われればヴィルフリートにも分かる。シャツの襟元に巻くクラヴァットだ。
「……私に?」
「使ってくださいますか?」
ヴィルフリートは言葉もなく、アメリアの差し出す布を手に取った。刺繍しているのをずっと見ていたから、意匠はよく知っている。この「竜の城」の庭に咲く、幾種類かの花。それに蔦をからめた図案が、銀を基調とした抑えた色彩で縁取られている。
「……」
「……お気に召しませんか……?」
アメリアの瞳が不安げに揺れた。
何か言わなくては。そう思うのにヴィルフリートの口は彼の思い通りに動いてくれなかった。どうやら言葉を発することは、当分できそうにない。勢いあまって、ヴィルフリートはアメリアを抱きよせた。
「ヴィル様……?」
「アメリア、ありがとう」
ようやく言葉が滑り出した。腕の中の愛しい人が、その言葉にふうっと身体の力を抜くのが分かる。
「嬉しい。本当に嬉しいよ。大切にする」
「はい……、喜んで下さって良かった」
「喜ばないわけがないだろう」
顔を上げ、まだアメリアの手にあったクラヴァットの端を手に取り、改めて刺繍を眺めた。両端の縁を飾る小さな刺繍に、アメリアがどれだけの時間をかけていたか、彼は知っている。
「すごく綺麗だ」
そのまま布の端にそっと口づけた。自分のドレスより先に、まずこれを贈ってくれたことが、そのために彼女がかけてくれた手間と時間が尊かった。
布を持つアメリアの手を取って屈み、自分の首にかけさせる。アメリアが頬を染めて笑った。
「お似合いです、ヴィル様」
「ありがとう。――愛しているよ、アメリア」
アメリアの返事は、ヴィルフリートに唇を塞がれて言葉にならなかった。