竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
アメリアは今度こそ、ドレスの仕立てにとりかかった。型紙を置き印をつけ、針で留める。そしておもむろに鋏でじょきじょきと切っていく。迷いのないその仕草はいつものアメリアとは少し違って見えて、ヴィルフリートには新鮮だった。
彼の襟元には、今日もあのクラヴァットが巻かれている。時々思い出したように端を撫で、鏡を見ては微笑むヴィルフリートに、アメリアは恥ずかしそうに笑った。
「ヴィル様、私にかまわず、どうか他のものも身につけてくださいね」
「いや、私にはこれがいいんだ。銀糸の刺繍だからどんな色にも合うと思うし、他の布より暖かいし」
「ヴィル様……」
薄絹のクラヴァットに、暖かさの違いなどそうありはしない。だがヴィルフリートは大真面目だった。
「お気に召していただけて嬉しいです。では、また何か作りますね」
「いや、これで充分だ。あとは君の好きなものを仕立てるといい」
ヴィルフリートは慌てて手を振ったが、目元が緩んでしまっている。アメリアの言葉に喜んでいるのは、誰が見ても明らかだった。
会話の途中でノックの音がして、レオノーラが入ってきた。お茶を注ぎながら微笑む。
「まあ、ヴィルフリート様。本当にお気に入られたのですね。でも明日あたり、そろそろお手入れをさせましょうか」
するとヴィルフリートはぎょっとしたように襟元を押さえた。
「いや、それには及ばない。別に汚してなどいないから」
「でも、長いこと置いてしまうと色が……」
レオノーラは今にも笑い出しそうだ。アメリアは顔が痛いくらいに目じりを下げて微笑んだ。洗濯を嫌がるなんてまるで子供のようだが、そんなヴィルフリートがたまらなく嬉しい。
「ヴィル様、そのほうが長く使っていただけますから……」
アメリアも口を添えると、ヴィルフリートはしぶしぶ頷いた。それでもまだ不安そうに、レオノーラに言い添える。
「アンヌに、とくに丁寧に扱うようによく言ってくれ」
アメリアはたまらず吹き出した。レオノーラは大っぴらに笑っている。
「はい、かしこまりました。よーく言いますから」
レオノーラが出て行くと、ヴィルフリートは照れ隠しのようにお茶を口に運んだ。その左手がまだクラヴァットに触れているのを見て、アメリアはますます頬が緩んでしまう。
「ヴィル様、このドレスが終わったら、ヴィル様にもう一枚作りますね。それともアンヌに、編み物を教えてもらおうかしら」
「いや、いいんだアメリア」
ヴィルフリートの頬が僅かに赤い。もうこれ以上頬の緩めようがなくて、アメリアは涙が零れそうになる。ここへ来るまで、自分がこんなに幸せな思いができるなんて夢にも思わなかった。
――私をヴィル様の番にして下さった運命に、心から感謝します。
いったん止んでいた雪が、またちらちらと降り出した。例え冬中雪に閉じ込められようと、二人には何も問題はない。暖かい部屋で冬ごもりをする、幸せな番たちだった。
彼の襟元には、今日もあのクラヴァットが巻かれている。時々思い出したように端を撫で、鏡を見ては微笑むヴィルフリートに、アメリアは恥ずかしそうに笑った。
「ヴィル様、私にかまわず、どうか他のものも身につけてくださいね」
「いや、私にはこれがいいんだ。銀糸の刺繍だからどんな色にも合うと思うし、他の布より暖かいし」
「ヴィル様……」
薄絹のクラヴァットに、暖かさの違いなどそうありはしない。だがヴィルフリートは大真面目だった。
「お気に召していただけて嬉しいです。では、また何か作りますね」
「いや、これで充分だ。あとは君の好きなものを仕立てるといい」
ヴィルフリートは慌てて手を振ったが、目元が緩んでしまっている。アメリアの言葉に喜んでいるのは、誰が見ても明らかだった。
会話の途中でノックの音がして、レオノーラが入ってきた。お茶を注ぎながら微笑む。
「まあ、ヴィルフリート様。本当にお気に入られたのですね。でも明日あたり、そろそろお手入れをさせましょうか」
するとヴィルフリートはぎょっとしたように襟元を押さえた。
「いや、それには及ばない。別に汚してなどいないから」
「でも、長いこと置いてしまうと色が……」
レオノーラは今にも笑い出しそうだ。アメリアは顔が痛いくらいに目じりを下げて微笑んだ。洗濯を嫌がるなんてまるで子供のようだが、そんなヴィルフリートがたまらなく嬉しい。
「ヴィル様、そのほうが長く使っていただけますから……」
アメリアも口を添えると、ヴィルフリートはしぶしぶ頷いた。それでもまだ不安そうに、レオノーラに言い添える。
「アンヌに、とくに丁寧に扱うようによく言ってくれ」
アメリアはたまらず吹き出した。レオノーラは大っぴらに笑っている。
「はい、かしこまりました。よーく言いますから」
レオノーラが出て行くと、ヴィルフリートは照れ隠しのようにお茶を口に運んだ。その左手がまだクラヴァットに触れているのを見て、アメリアはますます頬が緩んでしまう。
「ヴィル様、このドレスが終わったら、ヴィル様にもう一枚作りますね。それともアンヌに、編み物を教えてもらおうかしら」
「いや、いいんだアメリア」
ヴィルフリートの頬が僅かに赤い。もうこれ以上頬の緩めようがなくて、アメリアは涙が零れそうになる。ここへ来るまで、自分がこんなに幸せな思いができるなんて夢にも思わなかった。
――私をヴィル様の番にして下さった運命に、心から感謝します。
いったん止んでいた雪が、またちらちらと降り出した。例え冬中雪に閉じ込められようと、二人には何も問題はない。暖かい部屋で冬ごもりをする、幸せな番たちだった。