竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「子爵様、大変です……!」
夜会も行われず、謁見さえも控えられ、王宮は不気味に静まり返っていた。そのなかで必死に務めに励むギュンター子爵の執務室に、部下が駈け込んできた。
たった今も、子爵は病の犠牲者を眺めて考え込んでいた。彼の責務上、王家と貴族の主だった者たちのことはほぼ網羅している。だが、ひとつ気になることが出来たのだった。
「どうした、報告せよ」
「はっ……」
部下はひとつ息を整え、顔を上げた。
「お、王太子殿下がご発病と……!」
「何だと?」
子爵は思わず腰を浮かせた。先ほどまで考え込んでいた不安が、最悪の形をもって証明されつつある。
今回猛威を振るうこの病は、多くの犠牲者を出している。それでも半数以上は、無事に回復できていた。だが……。
そこで気付いて部下を労い退出させ、子爵は座り込んで頭を抱えた。
「なぜ、竜の瞳を持つ者が……」
そう、子爵は気づいたのだった。
王家の血を引く印の、明るい黄緑の瞳。生き残った者の中に、それが一人もいない。それ以前に、その瞳を持つ者たちの発病率が異常に高かった。
貴族の罹患者の、八割以上がそうだ。例の瞳を持つ者がもともと十人にひとりほどであることを考えれば、このような偏りはあり得ない。
竜の瞳をもつ者は高確率で発病し、罹れば確実に亡くなっている。
――まるで、竜の血を狙っているかのようではないか。
心の中で思うだけでも、思わず辺りを見回してしまう。うかつに口に出せる内容ではなかった。
子爵は沈鬱な表情で、黙々とリストを埋めていった。
夜会も行われず、謁見さえも控えられ、王宮は不気味に静まり返っていた。そのなかで必死に務めに励むギュンター子爵の執務室に、部下が駈け込んできた。
たった今も、子爵は病の犠牲者を眺めて考え込んでいた。彼の責務上、王家と貴族の主だった者たちのことはほぼ網羅している。だが、ひとつ気になることが出来たのだった。
「どうした、報告せよ」
「はっ……」
部下はひとつ息を整え、顔を上げた。
「お、王太子殿下がご発病と……!」
「何だと?」
子爵は思わず腰を浮かせた。先ほどまで考え込んでいた不安が、最悪の形をもって証明されつつある。
今回猛威を振るうこの病は、多くの犠牲者を出している。それでも半数以上は、無事に回復できていた。だが……。
そこで気付いて部下を労い退出させ、子爵は座り込んで頭を抱えた。
「なぜ、竜の瞳を持つ者が……」
そう、子爵は気づいたのだった。
王家の血を引く印の、明るい黄緑の瞳。生き残った者の中に、それが一人もいない。それ以前に、その瞳を持つ者たちの発病率が異常に高かった。
貴族の罹患者の、八割以上がそうだ。例の瞳を持つ者がもともと十人にひとりほどであることを考えれば、このような偏りはあり得ない。
竜の瞳をもつ者は高確率で発病し、罹れば確実に亡くなっている。
――まるで、竜の血を狙っているかのようではないか。
心の中で思うだけでも、思わず辺りを見回してしまう。うかつに口に出せる内容ではなかった。
子爵は沈鬱な表情で、黙々とリストを埋めていった。