竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「王家の血筋に、アメリア様のような明るい緑の目……『竜の瞳』を持つ者が生まれるというのはご存じですね。国王陛下、皇太子殿下をはじめ、先代のご血筋あるいは妾腹のものまで含めると、王宮にはその瞳を持つ者が何十人もおりました。それが……」
そこで子爵は大きく息を吐いた。
「どういうわけか、その瞳を持つ者は……、今回の病に非常に弱かったのです。私の見たところ、普通の人間は四人から五人に一人発病していますが、亡くなるのはさらにその半分以下です。それに対し、竜の瞳を持つ者は……八割近くが発病し、ほぼ全て亡くなっているのです」
アメリアはぞくりと鳥肌が立つのを感じた。確かにその偏り方は、尋常ではない。
貴族のなかには、王家の血を引くものも多い。当主や嫡子を亡くしたところも多かった。王家でも王太子を筆頭に、継承順位の高いものがほとんど亡くなったので、王宮はパニックになっているという。
「直系とはとても言えぬものしか、残っていないのです」
「悪いが、それがどうしたのだ、子爵?」
ヴィルフリートが痺れを切らしたように尋ねた。彼はものごころついて以来、竜の城から出たことがない。だから王都や王宮の惨状を聞いても、今ひとつ想像がつかないのかもしれなかった。
「長々と失礼しました。ですが、本題はここからなのです」
今までヴィルフリートの存在は、王宮の秘密としてかたく守られてきた。公に知られているのは、王家の血を引く者に「竜の瞳」が出るということ、そしてその中から若い娘が「竜の花嫁」として送り込まれること、それだけだ。国のどこかに伝説の「竜」がいて、花嫁とは本当に生贄にされるのだと信じられている。子細を司るギュンター子爵とごく一部の者以外、真実を知る者はいない。
「ですから、ここでこうしてお二人がお暮らしになっていることは、陛下とごく一部の者しか知らないはずだったのです。それが……」
「それが……? 竜の瞳を持つ者がいなくなったからと言って、まさかアメリアを返せというわけではないだろう?」
アメリアは驚いてヴィルフリートに身をすり寄せた。子爵は疲れたように笑う。
「もちろんそのような事、王宮は申しません」
「……王宮は?」
その言い方に含みを感じ、アメリアは思わず問い返した。隣のヴィルフリートが身体を強ばらせたのが分かる。
「実は、カレンベルク伯爵が……」
そこで子爵は大きく息を吐いた。
「どういうわけか、その瞳を持つ者は……、今回の病に非常に弱かったのです。私の見たところ、普通の人間は四人から五人に一人発病していますが、亡くなるのはさらにその半分以下です。それに対し、竜の瞳を持つ者は……八割近くが発病し、ほぼ全て亡くなっているのです」
アメリアはぞくりと鳥肌が立つのを感じた。確かにその偏り方は、尋常ではない。
貴族のなかには、王家の血を引くものも多い。当主や嫡子を亡くしたところも多かった。王家でも王太子を筆頭に、継承順位の高いものがほとんど亡くなったので、王宮はパニックになっているという。
「直系とはとても言えぬものしか、残っていないのです」
「悪いが、それがどうしたのだ、子爵?」
ヴィルフリートが痺れを切らしたように尋ねた。彼はものごころついて以来、竜の城から出たことがない。だから王都や王宮の惨状を聞いても、今ひとつ想像がつかないのかもしれなかった。
「長々と失礼しました。ですが、本題はここからなのです」
今までヴィルフリートの存在は、王宮の秘密としてかたく守られてきた。公に知られているのは、王家の血を引く者に「竜の瞳」が出るということ、そしてその中から若い娘が「竜の花嫁」として送り込まれること、それだけだ。国のどこかに伝説の「竜」がいて、花嫁とは本当に生贄にされるのだと信じられている。子細を司るギュンター子爵とごく一部の者以外、真実を知る者はいない。
「ですから、ここでこうしてお二人がお暮らしになっていることは、陛下とごく一部の者しか知らないはずだったのです。それが……」
「それが……? 竜の瞳を持つ者がいなくなったからと言って、まさかアメリアを返せというわけではないだろう?」
アメリアは驚いてヴィルフリートに身をすり寄せた。子爵は疲れたように笑う。
「もちろんそのような事、王宮は申しません」
「……王宮は?」
その言い方に含みを感じ、アメリアは思わず問い返した。隣のヴィルフリートが身体を強ばらせたのが分かる。
「実は、カレンベルク伯爵が……」