竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「……義父、ですか?」
ギュンター子爵が調べたところでは、病気が流行り出して間もなく、アメリアの弟ハインリヒはあっさりと亡くなってしまったらしい。跡継ぎを失った伯爵は逆上したそうだ。早急に養子をとらなくては爵位を失ってしまうが、折しも流行り病で混乱の極みになっている王宮で、そのような人物を探すこともできない。
そんな中、思い出したのがアメリアだった。義理の娘を出世のために「竜の花嫁」として送り出したのは自分だったのだが。
――生贄になったと言われているが、もしかしたら本当は、生きているのではないのか? だとしたら、アメリアを取り戻し、婿を取れば……。
その頃既に自らも発病していた伯爵は、あろうことか病を押して宮廷へ出て、そのようなことを声高に叫んだらしい。
結局、伯爵はそのまま亡くなってしまい、彼の話は病のせいの妄言とされたはずだった。ところが春になって病の流行が落ち着いてくると、その噂がじわじわと蒸し返されてきたのだという。
「そんな、義父が……」
アメリアは愕然とした。確かに地位や名誉、目先の自分の利益にしか目の行かない人だったけれど……。それではまるで、王家の秘密を暴露したも同じだ。
「アメリア、君が気にすることはない。ギュンター子爵、その噂が何か問題があるのか」
「……失礼、ヴィルフリート様のおっしゃる通り、アメリア様には何の責任もないことです。気に病まれる必要はありません。ですが、ヴィルフリート様」
向き直った子爵の表情は硬かった。
「何だ」
「その噂がきっかけで、貴方様を担ぎ出そうとする動きがあるのです」
「私を……?」
ヴィルフリートは唖然として呟いた。
「私の存在は伏せられていたのではなかったのか……?」
「はい、それはもちろん。ですが、王宮には当然知っている方がおられます」
「……母、か」
「はい。――正確には、そのご夫君のハルトムート公ですが」
――ハルトムート公。
その名前なら、社交界へ出ていなかったアメリアでさえ知っている。王妹マルグリット様のご夫君で……。
――ということは、ヴィルフリート様は……!
ギュンター子爵が調べたところでは、病気が流行り出して間もなく、アメリアの弟ハインリヒはあっさりと亡くなってしまったらしい。跡継ぎを失った伯爵は逆上したそうだ。早急に養子をとらなくては爵位を失ってしまうが、折しも流行り病で混乱の極みになっている王宮で、そのような人物を探すこともできない。
そんな中、思い出したのがアメリアだった。義理の娘を出世のために「竜の花嫁」として送り出したのは自分だったのだが。
――生贄になったと言われているが、もしかしたら本当は、生きているのではないのか? だとしたら、アメリアを取り戻し、婿を取れば……。
その頃既に自らも発病していた伯爵は、あろうことか病を押して宮廷へ出て、そのようなことを声高に叫んだらしい。
結局、伯爵はそのまま亡くなってしまい、彼の話は病のせいの妄言とされたはずだった。ところが春になって病の流行が落ち着いてくると、その噂がじわじわと蒸し返されてきたのだという。
「そんな、義父が……」
アメリアは愕然とした。確かに地位や名誉、目先の自分の利益にしか目の行かない人だったけれど……。それではまるで、王家の秘密を暴露したも同じだ。
「アメリア、君が気にすることはない。ギュンター子爵、その噂が何か問題があるのか」
「……失礼、ヴィルフリート様のおっしゃる通り、アメリア様には何の責任もないことです。気に病まれる必要はありません。ですが、ヴィルフリート様」
向き直った子爵の表情は硬かった。
「何だ」
「その噂がきっかけで、貴方様を担ぎ出そうとする動きがあるのです」
「私を……?」
ヴィルフリートは唖然として呟いた。
「私の存在は伏せられていたのではなかったのか……?」
「はい、それはもちろん。ですが、王宮には当然知っている方がおられます」
「……母、か」
「はい。――正確には、そのご夫君のハルトムート公ですが」
――ハルトムート公。
その名前なら、社交界へ出ていなかったアメリアでさえ知っている。王妹マルグリット様のご夫君で……。
――ということは、ヴィルフリート様は……!