竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
探し出すとは言ったものの、彼らには何の手がかりもなかった。
王宮で知られているのは、時折王家の血を引く娘が「竜の花嫁」としてどこかへ送り出されているらしいこと。生贄にされるらしい、というまことしやかな噂が信じられているが、「王子」がいる以上、もしや「花嫁」も本当なのではなかろうか。
権力の亡者と有名だったカレンベルク伯爵が、亡くなる前に口にしたのは真実だったのか。ならば彼の娘を探せば、その「王子」とやらの居場所も分かるかもしれない。
「カレンベルク伯爵夫人、我らは理由あってご息女をお探ししているのです。ご存じのことをお知らせくださいませんか。――むろん、悪いようにはいたしませぬ」
夫と嫡男を失い、未亡人となったカレンベルク伯爵夫人は、気の弱そうな女性だった。これならば比較的簡単に、情報が手に入るのではないだろうか。彼らはそう考え、心細い未亡人が喜びそうな言葉を並べた。
夫人は黙ってその話を聞いていたが、やがて口を開くと静かに言った。
「残念ですが、お探しの娘ではないようです。確かに娘には、『竜の花嫁』のお話がありました。ですが、その直後に風邪を拗らせまして、あっけなく……」
「は? 亡くなられたと?」
「はい。お疑いなら、当家の墓地をお調べくださいませ」
彼らは落胆して帰っていった。もちろん、カレンベルク家の墓地は確認した。確かに約一年前に、令嬢アメリアの新しい柩が納められていた。
もちろん彼らは知らない。すべてギュンター子爵が手配し、アメリアの母の伯爵夫人に、もし誰かに行方を尋ねられたらそう言うように言い含めておいたことだった。
王宮で知られているのは、時折王家の血を引く娘が「竜の花嫁」としてどこかへ送り出されているらしいこと。生贄にされるらしい、というまことしやかな噂が信じられているが、「王子」がいる以上、もしや「花嫁」も本当なのではなかろうか。
権力の亡者と有名だったカレンベルク伯爵が、亡くなる前に口にしたのは真実だったのか。ならば彼の娘を探せば、その「王子」とやらの居場所も分かるかもしれない。
「カレンベルク伯爵夫人、我らは理由あってご息女をお探ししているのです。ご存じのことをお知らせくださいませんか。――むろん、悪いようにはいたしませぬ」
夫と嫡男を失い、未亡人となったカレンベルク伯爵夫人は、気の弱そうな女性だった。これならば比較的簡単に、情報が手に入るのではないだろうか。彼らはそう考え、心細い未亡人が喜びそうな言葉を並べた。
夫人は黙ってその話を聞いていたが、やがて口を開くと静かに言った。
「残念ですが、お探しの娘ではないようです。確かに娘には、『竜の花嫁』のお話がありました。ですが、その直後に風邪を拗らせまして、あっけなく……」
「は? 亡くなられたと?」
「はい。お疑いなら、当家の墓地をお調べくださいませ」
彼らは落胆して帰っていった。もちろん、カレンベルク家の墓地は確認した。確かに約一年前に、令嬢アメリアの新しい柩が納められていた。
もちろん彼らは知らない。すべてギュンター子爵が手配し、アメリアの母の伯爵夫人に、もし誰かに行方を尋ねられたらそう言うように言い含めておいたことだった。