竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「お嬢様、本気ですか?」
「ええ、お願いラウラ。どうしてもやりたいの」

 ラウラは困ったように首を傾げた。

「……まあ、お嬢様はもともと刺繍もなさってたから、すぐにお上手になるとは思いますけど……。でも伯爵家のお嬢様が、なんだってわざわざ仕立てなんて習おうと思うんです?」
「あら、だって。自分でできたら素敵じゃない?」

 それは、十六歳の誕生日を迎える少し前。
 少しずつ町の暮らしや市井の知識を身につけたアメリアは、今度は裁縫、それもドレスの仕立てを学ぶべく、ラウラに頼み込んだのだった。
 おそらく十八歳になるころには、義父によって結婚を決められるだろう。自分に残された時間は、刻一刻と減ってゆく。

「私、刺繍は大好きだから、きっと出来ると思うの。ラウラのご両親の知り合いに、仕立ての親方さんはいないかしら?」

 するとラウラは眉を寄せた。

「お嬢様、それは無理です」
「あら、どうして? お知り合いでは無理?」

 ラウラは首を振り、説明してくれた。

 ドレスの仕立ては、革小物や宝飾品、武具などと同様に、親方を中心に工房で行われる。それは当然師弟制で、弟子は最低でも五年や十年、住み込みで雑用もこなしながら技術を習得するものだ。

「ですから、お料理のときのようにはいかないのです」
「そうなのね……。さすがに住み込みは無理だわ……」

 がっかりするアメリアに、ラウラは慰めるように言った。

「まあ、一応両親に聞いてはみますけど……あまり期待はなさらないでくださいね」

 ところが数日後、ラウラが思いがけない話を持ってきた。

「祖母の知り合いに、昔はドレスの工房をやっていた人がいるんです。今は息子に譲って、ひとりで暮らしてるんですって。教えてくれるかは分かりませんが、とりあえず、祖母が紹介してくれるそうですよ?」

 願ってもない話だ。翌日、アメリアは早速出かけて行った。

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