竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
竜の望み
「竜の末裔」について書かれたと思われる本を検分し、思いがけないことまで知ってしまったその夜。ヴィルフリートは、いつになく激しくアメリアを求めた。
「もう、もうむり……。ヴィルさま、おねが……」
アメリアが喘ぐ息の下から訴えるが、ヴィルフリートの耳には入らないようだ。
いつものヴィルフリートなら、決して無理をさせたりはしない。例え自分が、どれほど耐えがたい状態であろうとも。
だが今夜ばかりは、自分でもまったく抑えがきかない。どんなに抱いても、満たされる気がしない。いっそこのまま、アメリアに溺れてしまいたい。満月の晩の獣のように、彼は狂おしい何かに駆り立てられていた。
「……アメリア、許してくれ」
アメリアを腕に閉じ込め、切れ切れに呟く。
「……私がいなければ……君はこんなところへ来なくて済んだのか……?」
「え……?」
「この国の、犠牲にならずに済んだのか……?」
「ヴィル様……!」
アメリアが小さく叫んだが、ヴィルフリートはアメリアの肩に顔を押し付けたままだ。胸の奥が、痛い。重くて冷たい何かが、ずっしりと腹の底に巣食っている。
アメリアを得て一年。竜の末裔として遠ざけられ、辺境の地で暮らす身にも、やっと幸せを得たと思った。
――だがそれは、この国の重ねてきた罪の上に成り立つ幸福だったのか。この身はもしや、祖先の罪の証なのか?
ものごころついて以来理解しているつもりだった、自分という存在。あの本と手記を読んでから、ただでさえ不安定な自分が、ついに足元から崩れて消えてしまいそうな……、そんな気持ちから逃れられない。
「ヴィル様……?」
柔らかい手が、淡い金の髪を梳いた。はっと息を止めたヴィルフリートに、アメリアは乱れた息を懸命に整えながら話しかける。
「ヴィル様、私は、後悔していません。……もしも『竜の花嫁』に、ならなかったら。私はきっと、父の望む相手に嫁がされていたと思います。こんなふうに愛されることは、たぶん……なかったでしょう」
「……」
ヴィルフリートは動けぬまま、アメリアの言葉に耳を傾ける。
「私は『竜の花嫁』だからこそ……ヴィル様に会えたんです。だから、感謝しています。神様か国王陛下か、誰かは分かりませんけど、私を『花嫁』にしてくれたことに」