竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「アメリア……」

 ようやく顔を上げると、アメリアが弱々しく微笑んでいた。その顔は青白く、ヴィルフリートは己の行いを思い出し、胸が痛む。

「確かに過去の花嫁の中には……そうなることを、望まなかった者もいたかもしれません。でもそれは、普通の結婚でもあり得ること」
「……それは、そうだが」
「それに、ヴィル様。私、初めて知ったことがあるんです。ヴィル様に会って」
「私に……?」
「はい、ヴィル様」

 アメリアは疲れ切った重い腕で、ヴィルフリートの頭を抱いた。

「愛しています、ヴィル様……」
「アメリア」
「ヴィル様は、私に……教えてくれました。愛される……だけじゃなくて。愛する、幸せ……を」

 その目がすうっと閉じて……回された腕が、するりと落ちた。同時に腕の中の身体からも、力が抜ける。どうやら疲れ果ててしまったらしい。確かに、いつになく無理をさせてしまった。そのまま沈むように深い眠りに落ちて行くのが、ヴィルフリートには分かった。

 月明かりで寝顔を見ているうちに、ヴィルフリートの身体からもようやく力が抜けた。
 これまでの人生がアメリアに会うためだったのなら、生まれてきたことを感謝しても良い。アメリアのほうこそ、これまで知らなかった暖かい気持ちを、彼に教えてくれたのだ。

「……アメリア、ありがとう。……良い夢を」

 静かに汗を拭い、布団をかけてやる。さっきまでの焦りは、もうなかった。アメリアの言葉で、自分は救われた。
 そっと頬に口づけ、ヴィルフリートも目を閉じた。



「ヴィル様、もう大丈夫ですから……!」

 翌日、疲れ果てたアメリアは朝食に起きられなかった。それは仕方ないのだが、今度は昼を過ぎても、まだベッドから出してもらえない。ヴィルフリートはレオノーラにも手伝わせず、アメリアの食事を運んだり、水を汲んだりとかいがいしく世話をやいている。

「だめだアメリア。頼むからゆっくり休んでいてくれ。……昨夜は本当に悪かった」

 アメリアはため息をついた。それからゆっくりベッドに起き上がる。確かに身体は重くてだるいけれど、だからと言って半日以上も寝ている訳にいかない。

「なら、ヴィル様。もしよろしければ、図書室から昨日の本を持ってきてくださいませんか」
「アメリア?」

 アメリアはヴィルフリートを見つめて言った。

「お辛いなら、無理にとは言いません。でもどうしても、あのままにしたくないのです」

 ――ヴィル様を守るために。

 アメリアの静かな決意に、ヴィルフリートはもう何も言わなかった。


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