竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
「望む、とは?」

 ヴィルフリートは首をかしげたが、アメリアも上手く説明できない。

「エルナ様が亡くなられた時期は明らかにされていませんけど、(つがい)の竜には、離れていてもきっと分かったと思いませんか?」
「ああ、本物の竜なら不思議はないな。(つがい)を失うことがどれほどの衝撃か、私にも察せられる」

 ヴィルフリートの声が揺れるのを感じて、アメリアは心が痛んだ。その肩にそっと寄り添って、せめて体温を分かち合う。

「竜と人間(ひと)との違いはあっても、きっと同じように悲しみ、ゲオルグ王を恨まれたでしょうね」
「……そうだな」

 愛する人を亡くすなんて、考えるだけでも辛い。二人はそっと手を絡め合った。

「でもその頃、王太子レオン様は、まだ成人されていなかったのですよね? レオン様がお子を授かる見込みなどなかったのに、どうして竜は……ゲオルグ様やレオン様に、何もしなかったのでしょう? どうしてレオン様が王太子妃を迎えて、その方が身ごもられるまで待っていたのでしょう?」

 考えもしなかった。ヴィルフリートは黙ってアメリアの言葉を待つ。その瞳を見て、アメリアの頭にある考えが浮かんだ。

「ヴィル様、ヴィル様はとても穏やかで、優しい方です。もしかして、竜は……末裔の方も……みんなそうなのではありませんか」

 ヴィルフリートは目を丸くした。

「……何故そんなことを言うのか、私には分からない。だが、ここには歴代の「竜」たちの書いたものも多く残っている。言われてみれば、穏やかな性格が多いようだ」

 アメリアは頷いた。ぼんやりとした思い付きが、なんとなく形になってきたような気がする。

「エルナ様の竜も、きっとそうだったと思うのです。具合を悪くされた(つがい)を、手放してあげるくらいなのですもの」
「……確かにそうだ。では、なぜこんなことに」
「上手く言えないんです。でも、エルナ様を大切にしてほしかったに違いないと……」

 当の竜ではないのだから、もちろん想像することしかできないのは分かっている。でもヴィルフリートを前にして「竜」というものを想像すると、これまでと全く見方が変わってしまう。

「番のためを思って国へ返したのに、エルナ様は亡くなってしまわれた。もしゲオルグ王にそれを悔いる気持ちがあるなら、その証をみたい……と。そう考えたとは思いませんか?」
「アメリア?」
「少しでもエルナ様に悪かったと思うのなら、竜を思い起こさせる子が生まれたらどうするか……。その子を迷わず王に戴くはず……というか、もしや……そうして、示してほしかったのでは……?」

 アメリアの話について行けず、ヴィルフリートは首をかしげる。

「待ってくれアメリア。どういうことだ」
「……うまく言えません。多分当時の竜は、きっと今のようには人間と意思の疎通ができなかったんだと思います。それでも、もしこれが呪いだというなら何をもってそれが解けるのか……?」
「まさか」
「はい、何の根拠もありません。でもそんな気がするんです。竜の末裔が王冠を戴けば、この呪いが解けるのでは、と」


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