竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
ヴィルフリートの背中を、冷たい汗が伝った。なぜアメリアがそんなことを言い出したのか、彼には理解がつかなかった。
――竜の末裔が、王冠を……。それは、王になるという……?
「アメリア、まさか君は……?」
――私に王都へ行って、王になれというのか……?
ヴィルフリートは信じられない思いで口を開いた。
「君は私が……」
「まさか、そんなこと絶対言いません!」
思いがけない調子で言い返され、ヴィルフリートはかえって面食らった。たった今言ったではないか、「竜の末裔」が王冠を戴けば、と。
「エルナ様の竜からしたら、というだけです。それとヴィル様は別です。たとえ国王陛下が頭をお下げになっても、私にはヴィル様のお気持ちの方が大切ですから」
一気に言うのを呆気にとられて聞いていると、アメリアは急に下を向いた。
「ごめんなさい、確実にそうだというわけでもないのに、こんな大事なことを……」
「……いや、私も君の考えはかなり近いのではと思う。だが、もちろん私は王になどならない」
俯いていたアメリアが、ぱっと顔を上げた。その目は涙に潤んでいる。
「よ、良かった……。もしヴィル様が王になられたら、きっと私はお傍においてもらえないと……」
「……この短い間に、そんなことまで考えたのか?」
敢えて笑って、ヴィルフリートはアメリアを抱き寄せた。
仮に王都へ行ったとて、自分が番であるアメリアを手放せるわけがない。だがアメリアが一瞬でそこまで思い詰めるほど、王宮というところは難しいところなのだろう。
「大丈夫だ。私もアメリア……君以上に大切なものなどいない。忘れたのか、私たちは番同士なんだよ」
腕の中のアメリアが、何度も何度も頷く。
「アメリア、私は王になどならない。もしそのせいで、例えこの国を亡ぼすことになろうとも。人によっては、そんな私を冷たいと思うかもしれない。それでも王家の一員かと、責める者もいるだろう。だが……私はこれからもここで、君だけのために生きる。そんな身勝手な私と、この先も共に生きてくれるか」
「ヴィル様……!」
アメリアが涙に濡れた顔を上げた。
「はい、もちろんです。私も、ヴィル様と……!」
ひとまずこれ以上、この本に触れることはしない。王都でどのような騒ぎになろうとも、王宮の権謀には近寄らない。
二人はそう決め、これまで通りに暮らそうと話し合った。
しかし王宮の動きは、すでに二人の逃れられないところまで迫っていた。
――竜の末裔が、王冠を……。それは、王になるという……?
「アメリア、まさか君は……?」
――私に王都へ行って、王になれというのか……?
ヴィルフリートは信じられない思いで口を開いた。
「君は私が……」
「まさか、そんなこと絶対言いません!」
思いがけない調子で言い返され、ヴィルフリートはかえって面食らった。たった今言ったではないか、「竜の末裔」が王冠を戴けば、と。
「エルナ様の竜からしたら、というだけです。それとヴィル様は別です。たとえ国王陛下が頭をお下げになっても、私にはヴィル様のお気持ちの方が大切ですから」
一気に言うのを呆気にとられて聞いていると、アメリアは急に下を向いた。
「ごめんなさい、確実にそうだというわけでもないのに、こんな大事なことを……」
「……いや、私も君の考えはかなり近いのではと思う。だが、もちろん私は王になどならない」
俯いていたアメリアが、ぱっと顔を上げた。その目は涙に潤んでいる。
「よ、良かった……。もしヴィル様が王になられたら、きっと私はお傍においてもらえないと……」
「……この短い間に、そんなことまで考えたのか?」
敢えて笑って、ヴィルフリートはアメリアを抱き寄せた。
仮に王都へ行ったとて、自分が番であるアメリアを手放せるわけがない。だがアメリアが一瞬でそこまで思い詰めるほど、王宮というところは難しいところなのだろう。
「大丈夫だ。私もアメリア……君以上に大切なものなどいない。忘れたのか、私たちは番同士なんだよ」
腕の中のアメリアが、何度も何度も頷く。
「アメリア、私は王になどならない。もしそのせいで、例えこの国を亡ぼすことになろうとも。人によっては、そんな私を冷たいと思うかもしれない。それでも王家の一員かと、責める者もいるだろう。だが……私はこれからもここで、君だけのために生きる。そんな身勝手な私と、この先も共に生きてくれるか」
「ヴィル様……!」
アメリアが涙に濡れた顔を上げた。
「はい、もちろんです。私も、ヴィル様と……!」
ひとまずこれ以上、この本に触れることはしない。王都でどのような騒ぎになろうとも、王宮の権謀には近寄らない。
二人はそう決め、これまで通りに暮らそうと話し合った。
しかし王宮の動きは、すでに二人の逃れられないところまで迫っていた。