竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
その時隣室の窓が開き、煌々と明かりが灯った。侵入者たちがハッと立ちすくむ。
「こんな時間に、当家に何のご用ですかな」
低い声で問いかけたのはエクムントだった。その手にはボウガンが構えられている。中心にいた男が慌てたように言った。
「い、いや、お騒がせして申し訳ない。道に迷いましてな、一晩休ませていただけないかと……」
「ほう、道に迷われた。呼び鈴も鳴らさず、わざわざ生け垣を乗り越えてとはご苦労さまですな」
「……」
もう一人の男がひっと息を吸った。エクムントが注意を引いている間に、いつの間にかさらに二人の男が、後ろから武器を構えているではないか。彼らは知らないが、庭師のニコラと馭者のフーゴだった。
「言い訳は聞きません。お引き取り下さい」
中央の男はそっと振り返った。それぞれの武器が確実に狙いを定めている。
「くっ……」
それでもまだ何か言おうとしたが、それまで黙っていた男が首を振って止めた。
「さあ、帰ってもらおうか」
ニコラが大きな鎌を構え、三人の男を歩かせる。フーゴが手にしているのは馭者らしからぬ長剣だ。エクムントは侵入者が敷地の外へ出るまで、矢をつがえたまま見送った。
「失礼、ヴィルフリート様」
男たちが門の外へ出ると、エクムントはすぐに主の寝室へ向かった。もちろんヴィルフリートは起きていて、その腕に妻を抱いている。
「エクムント、ご苦労だった。……追い返したのか?」
「はい、あとはニコラとフーゴに任せてあります。お騒がせを致しました。奥方様はどうか安心してお休み下さい」
アメリアの不安を煽らぬよう、そう報告するにとどめた。あとはヴィルフリートが何とか宥めてくれるだろう。
エクムントは自分の仕事部屋へ入り、ギュンター子爵へ手紙を書き始める。
手紙を書き終えてしばらくした頃、静かに扉が空いて、ニコラとフーゴが入ってきた。
「エクムントさん、戻りました」
「ご苦労ですな、お二人とも」
エクムントの言葉は、庭師と馭者に対するものより丁寧だ。実は二人とも、もとはギュンター子爵の部下だった。「竜の城」の警護役としてここに暮らすようになって長い。普段は庭師と馭者としての暮らしがすっかり板についているが、決して訓練を怠ることはなかった。
「……で?」
「ええ、ご安心を」
それ以上は口に出さずとも分かる。ただ追い返しただけでは安心など出来ない。森の中で、 密かに始末してきたのだろう。エクムントは頷いた。
「とは言え、これ以上人数を増やされでもしたら困りますな。やはり子爵様にお知らせしたほうが……」
「ええ、今書いておきました」
「なら明日、私が村へ行きましょう。ちょうど買い出しに行く日ですからね」
ついでに果物を買ってくるくらいの気安さで、フーゴが言った。だが彼が実は先代子爵の護衛を任された程の腕前であることを、エクムントは知っている。
「こんな時間に、当家に何のご用ですかな」
低い声で問いかけたのはエクムントだった。その手にはボウガンが構えられている。中心にいた男が慌てたように言った。
「い、いや、お騒がせして申し訳ない。道に迷いましてな、一晩休ませていただけないかと……」
「ほう、道に迷われた。呼び鈴も鳴らさず、わざわざ生け垣を乗り越えてとはご苦労さまですな」
「……」
もう一人の男がひっと息を吸った。エクムントが注意を引いている間に、いつの間にかさらに二人の男が、後ろから武器を構えているではないか。彼らは知らないが、庭師のニコラと馭者のフーゴだった。
「言い訳は聞きません。お引き取り下さい」
中央の男はそっと振り返った。それぞれの武器が確実に狙いを定めている。
「くっ……」
それでもまだ何か言おうとしたが、それまで黙っていた男が首を振って止めた。
「さあ、帰ってもらおうか」
ニコラが大きな鎌を構え、三人の男を歩かせる。フーゴが手にしているのは馭者らしからぬ長剣だ。エクムントは侵入者が敷地の外へ出るまで、矢をつがえたまま見送った。
「失礼、ヴィルフリート様」
男たちが門の外へ出ると、エクムントはすぐに主の寝室へ向かった。もちろんヴィルフリートは起きていて、その腕に妻を抱いている。
「エクムント、ご苦労だった。……追い返したのか?」
「はい、あとはニコラとフーゴに任せてあります。お騒がせを致しました。奥方様はどうか安心してお休み下さい」
アメリアの不安を煽らぬよう、そう報告するにとどめた。あとはヴィルフリートが何とか宥めてくれるだろう。
エクムントは自分の仕事部屋へ入り、ギュンター子爵へ手紙を書き始める。
手紙を書き終えてしばらくした頃、静かに扉が空いて、ニコラとフーゴが入ってきた。
「エクムントさん、戻りました」
「ご苦労ですな、お二人とも」
エクムントの言葉は、庭師と馭者に対するものより丁寧だ。実は二人とも、もとはギュンター子爵の部下だった。「竜の城」の警護役としてここに暮らすようになって長い。普段は庭師と馭者としての暮らしがすっかり板についているが、決して訓練を怠ることはなかった。
「……で?」
「ええ、ご安心を」
それ以上は口に出さずとも分かる。ただ追い返しただけでは安心など出来ない。森の中で、 密かに始末してきたのだろう。エクムントは頷いた。
「とは言え、これ以上人数を増やされでもしたら困りますな。やはり子爵様にお知らせしたほうが……」
「ええ、今書いておきました」
「なら明日、私が村へ行きましょう。ちょうど買い出しに行く日ですからね」
ついでに果物を買ってくるくらいの気安さで、フーゴが言った。だが彼が実は先代子爵の護衛を任された程の腕前であることを、エクムントは知っている。