竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
再会と別れ
竜の城は短い夏を迎えた。
いつかの晩以来、不審な者が訪れることはなかった。しかしギュンター子爵からの連絡もない。王都の様子が分からないので、エクムントらは警戒を怠らず、密かに武器の手入れをしている。
ヴィルフリートとアメリアは、表向き変わりなく過ごしていた。
ある昼下がり、二人は図書室で寛いでいた。例の本にはもう手を触れることはなく、アメリアは美しい詩や物語を好んで読んだ。時には声に出して読み、ヴィルフリートが目を細めることもある。
「ヴィル様、少し休憩しませんか?」
アメリアが本を傍らに置いて尋ねた。ヴィルフリートが頷くと、立ち上がって紅茶を淹れる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
カップを渡す手が触れて、二人はふっと微笑みあった。並んでお茶を飲みながら、読んだ本のことや窓から見える景色のことを話し合う。アメリアがここへきて、おそらくもっとも長い時間を過ごしたのがこの長椅子かもしれない。ヴィルフリートとならお互い黙ったままでも、傍にいるだけで心地よい。
だが今は違った。ふと沈黙が降りるたびに、アメリアは祈ってしまう。このまま、この穏やかな日々が続くように、と……。
ヴィルフリートがふと眉を上げ、カップを持つ手を止めた。
「……誰か来る」
「……!」
図書室の窓からは、門は見えにくい。だがとりあえず、応対はエクムントがしてくれるはずだ。しばらく気配を伺っていたが、とくに揉めている様子もない。
するとせわしげな足音がして、レオノーラが図書室の扉を開けた。
「アメリア様。申し訳ありませんが、ちょっとこちらへお願いできますか」
アメリアが口を開く前に、ヴィルフリートが立ちあがった。
「レオノーラ、どういう事だ」
「ヴィルフリート様。今、ギュンター子爵からの手紙を持って訪ねてきた親子が、アメリア様の知り合いだと言っているのです。ですから、サロンの窓からでも確認していただこうと」
「知り合い……?」
子爵の知人に、自分の知り合いなどいただろうか。首をかしげるアメリアに、ヴィルフリートが手を差し出した。
「アメリア、私も行こう。とりあえず見てみるといい」
頷いて、三人はサロンへ向かった。
いつかの晩以来、不審な者が訪れることはなかった。しかしギュンター子爵からの連絡もない。王都の様子が分からないので、エクムントらは警戒を怠らず、密かに武器の手入れをしている。
ヴィルフリートとアメリアは、表向き変わりなく過ごしていた。
ある昼下がり、二人は図書室で寛いでいた。例の本にはもう手を触れることはなく、アメリアは美しい詩や物語を好んで読んだ。時には声に出して読み、ヴィルフリートが目を細めることもある。
「ヴィル様、少し休憩しませんか?」
アメリアが本を傍らに置いて尋ねた。ヴィルフリートが頷くと、立ち上がって紅茶を淹れる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
カップを渡す手が触れて、二人はふっと微笑みあった。並んでお茶を飲みながら、読んだ本のことや窓から見える景色のことを話し合う。アメリアがここへきて、おそらくもっとも長い時間を過ごしたのがこの長椅子かもしれない。ヴィルフリートとならお互い黙ったままでも、傍にいるだけで心地よい。
だが今は違った。ふと沈黙が降りるたびに、アメリアは祈ってしまう。このまま、この穏やかな日々が続くように、と……。
ヴィルフリートがふと眉を上げ、カップを持つ手を止めた。
「……誰か来る」
「……!」
図書室の窓からは、門は見えにくい。だがとりあえず、応対はエクムントがしてくれるはずだ。しばらく気配を伺っていたが、とくに揉めている様子もない。
するとせわしげな足音がして、レオノーラが図書室の扉を開けた。
「アメリア様。申し訳ありませんが、ちょっとこちらへお願いできますか」
アメリアが口を開く前に、ヴィルフリートが立ちあがった。
「レオノーラ、どういう事だ」
「ヴィルフリート様。今、ギュンター子爵からの手紙を持って訪ねてきた親子が、アメリア様の知り合いだと言っているのです。ですから、サロンの窓からでも確認していただこうと」
「知り合い……?」
子爵の知人に、自分の知り合いなどいただろうか。首をかしげるアメリアに、ヴィルフリートが手を差し出した。
「アメリア、私も行こう。とりあえず見てみるといい」
頷いて、三人はサロンへ向かった。